森さんのチョコレート 価格=森さんの言い値
2001年2月に、今は亡き「噂の真相」という雑誌のために書いたコラムを再録します。
なぜ、コラムタイトルが「森さんのチョコレート」になっているのかは、ちょっとわかりません。たぶん、当時森首相とチョコレートにかかわる何らかの事件があったのでしょう。
森さんのチョコレート:森さんの言い値
森首相は素晴らしいキャラだった(←過去形)。「言、珠を為す」という言葉があるが、まさに彼こそは発する言葉のすべてが記事のネタになる稀有な宰相だった。「歩く新聞記事」……いや、むしろ歩くミステリーだろうか。とにかく森さんは謎だらけだ。早稲田大学入学にはじまって、新聞社に入社した経緯から代議士に当選した裏事情まで、すべてが謎だった。で、最後はなぜか首相。おい、まるでSFだぞ。ファンタジーかもしれない。一介のニ流ラガーマンがついには首相にまでのぼり詰めたわけだからして、森さんの人生航路は日本版のフォレストガンプと言って良い。「バカでも運が良ければ」か。うむ。素敵だ。ファンタジスタ・森。「ふん。違うな。あいつはせいぜいが童謡の主人公だよ」ん? そんな歌があるのか?「ほら、《ある日 森 野中 クマさんに出会った》とかいう歌があるだろ」おお、「森のくまさん」か。とすると、森さんと野中さんが出会ったクマっていうのは具体的には誰だ? ロシア人か?「エリツィンならともかく、あのプーチンってのはクマというよりはキツネだ」じゃあ、ブッシュか?「いや、ブッシュは訳せば藪だ。つまり野郎は藪の中のムジナってとこだ」森と藪か。イヤな日米関係だなあ。「うむ。森藪関係は熱帯雨林衰退の暗喩だよ。オレはそう見ている。ヤツらの脳天気のせいで地球は温暖化するわけだ」それよりクマは誰なんだ?「ま、池田大作だろうな」なるほど。でも池田大作がどうして「お嬢さん お逃げなさい」てなことを言うんだ? しかも、この歌の中のクマは、自分で「お逃げなさい」と言っておきながら後をつけてきて落し物を届けるんだぞ。「そういうところがまるで学会の折伏そのものじゃないか。まず法難だの仏罰だのってな話でビビらせておいて、しつこくつきまとう。で、最終的には現世利益をチラつかせて組織に誘いこむって寸法だ」うむ。しかしだ。この後がまた謎だぞ。だってその「白い貝殻の小さなイヤリング」を拾ってもらったお嬢さんは、お礼に歌を歌うんだから。ラララとか。意味ないじゃないか。まるで支離滅裂だぞ。「当然、連立政権の成立秘話だよ、ここは。いいか《白い貝殻のちいさなイヤリング》だぞ。無知な組織票のメタファーに決まってるじゃないか。そんな有り難いモノを貰ったら政策だってラララってなもんだろ? だから池田さんのレイプ訴訟もラララってなことになるわけだよ」……お前、大丈夫か? そういう事言って、訴訟とか受けて立つ覚悟あるのか?「Hahaha! 全然違いマース」誰だよあんたは。「この歌はアメリカ民謡なのデース。で、モト歌では、森の中のクマさんは、次に会った時には玄関の敷き物になってました、と、そういうストーリーなのデース」野蛮な歌だなあ。「西部開拓時代のソングですから」でもさ。だとすると、話がおかしくないか? クマは殺されるわけだろ? つまり連立は解消ってことなのか?「だからアメリカの歌だって言ってるでしょうが。つまり、翻訳が間違ってるのデスね。そんな甘い話じゃないデス」じゃあどういう話なのさ?「森、野中が会ったクマさんは……」どうなるんだ?「小さい泉に身を投げて死ぬか、でなければ橋のたもとで野垂れ死に(以下自粛)」
以上です。
いま見ると、当時はポリティカル・コレクトネスの基準がユルかったことがうかがえます。
ついでに、なにかと話題の東芝について、2006年12月に書いたコラム(掲載はこれも今は亡き「論座」です)をご紹介しておきます。
東芝が音楽事業から撤退だそうだ。詳細は以下の通り。「東芝は14日、英EMIグループと共同出資する音楽ソフト会社、東芝イーエムアイ(EMI、東京)の全株(発行済み株式の45%)をEMI側に売却すると発表した。売却価格は約210億円。EMI側からの打診に応じた形だが、東芝も「コンテンツ事業はグループの他の事業との関連性が薄れてきている」と判断。同事業からの撤退を決めた――《後略》」(フジサンケイビジネスアイ、12月5日)了解。静かに撤退してくれ。1977年にエルビス・プレスリーが死んだ時、ジョン・レノンが言った言葉を思い出す。「オレの中では、エルビスは、軍隊に入隊した時点で死んでいる。いまさら驚かないよ」つまり、アレだ。ジョンのコメントにならって言うなら、東芝EMIは『レット・イット・ビー・ネイキッド』(←2004年に発売されたビートルズ最新/最後のオリジナルアルバム。'70年発売の「レット・イット・ビー」を、録音当時のアレンジに忠実な形でリミックスしたもの)をCCCD(←コピー・コントロールCD:不正コピー防止のために、特殊なデータを混入させた規格外CD)で発売した時、既に死んでいたのだな。そう。東芝EMIは、同社を長年にわたって支えてきた最大の功労者たるビートルズのメンバーが、「レット・イット・ビー」(←「あるがままに」)というオリジナルのタイトルを字義通りに体現するべく、あえて「ネイキッド」(生まれたまま。天然。)という但し書きをつけてまで再現しようとした録音当時のナマ音に、セキュリティー目的の非音楽的な制御コードを混入させた、世界で唯一の(同アルバムがCCCD型式で発売されたのは、日本版だけだった)レコード会社だった。たとえばの話、「無農薬」の刻印つきで入荷した野菜を、わざわざ店頭で農薬散布して売る八百屋があるだろうか?あるのだとすれば、そういう野菜を愛さない八百屋は、音楽を愛さないレコード会社と同じく、商売を替えるべきだと思う。農薬屋にでも。東芝EMIに限らず、レコード音楽産業は、バブル崩壊からこっち、一本調子で売り上げを落としてきている。昨年の音楽CD販売総額は、ピーク時の六割にまで減少しているという。で、一般に、こうしたCD不況の原因としてあげられるのは1. ネット配信等の普及2. 不正コピーの蔓延3. レンタルCDの一般化4. 少子化の進展といったあたりのお話なのだが、わが国の場合、これに5.CD価格の下方硬直性を加えねばならないと思う。つまり、再販制度によってレコード会社の権益が守られているわが国は、世界標準と比べて異常に高い価格でCDが流通している地域なのであって、その高価格が業界のクビを絞めている、と、そこのところを問題にしないと、片手落ちになる。要するに、レコード音楽産業は、「音楽著作権の独占的販売権」「再販制度による高価格の維持」という二つの既得権益にしがみつくことで、自縄自縛に陥っているわけで、とすれば、親会社が東芝であってもなくても、いずれ、撤退の日はやってきたはずなのだ。冒頭で引用した記事の続きを読むと、東芝EMIは、既に6月の段階で、自社ビルを売却し、520人いた社員の4割を削減する大リストラを断行していたのだそうだ。なるほど。全社員の4割におよぶ人員削減……って、これ、「リストラ」(リストラクション:組織の再編成に伴う人事の見直し)というより、「ディストラ」(ディストラクション:大量殺戮、駆除、崩壊)だよね。あるいは、ジェノサイドとか。このあたりの事情を知った上であらためて記事を読んでみると、株式売却のニュースを受けたユーミン(松任谷由実)のコメントが、異様に冷静(「時代の移り変わりだから仕方がない」「既定路線だと分かっていた」)だったのもうなずける。結局、関係者の間では、既に終わった話だったのだな。あるいは、レコード会社をはじめとする著作権ビジネスは、東芝やソニーみたいな企業にとって、現状では、獅子身中の虫になっているのかもしれない。つまり、映像の世界で問題になっている「コピワン」(ユーザーによるデジタル映像の録画を1回限りに制限する技術)にしろ、CCCDにしろ、そうした知的所有権がらみの制限事項が、デジタルAV機器の開発および販売にとって、足かせになるということで、身内にソフトウェア産業なんかをかかえていたら、韓国や台湾あたりがいずれ出してくるコピーし放題のデジタル録音/録画機器に足もとをすくわれるぞ、と。だったら、面倒ばっかりでたいしてカネにもならないCDなんかはすっぱり見切って、基幹産業である原発にでもシフト(東芝は、今年、原子力発電関連設備メーカーであるウェスチングハウスを5000億円で買収している)しようと、そう考えたわけだ。で、原発には5000億をポンと出して、一方、レコード会社は210億円で投げ売り、と。ええ、勝手にしてください。農薬でも原発でも、儲かると思うものを売ってください。心配なのは、リストラされた東芝EMIの元社員の今後だ。私も実際に幾人か知っているが、レコード会社の社員というのは、本当に音楽が大好きな人ばかりだ。いたましいことに。彼らが音楽の周辺にニューキャリア(新しい職)を見つけられんことを。ん? ニュークリア(核)?ディレクター崩れの原発職員?無理だな。品質にこだわり過ぎで、仕事にならないと思う。
以上です。
ではまた。
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