イニエスタ脳内インタビュー
トヨタ・プレゼンツ・クラブワールドカップの決勝が近いので、ハードディスクの片隅にあった古い原稿を再録します。
2009年の10月に書かれたテキストです。
「浦和フットボール通信」という浦和のフリーペーパーで連載していた、「スーパースター脳内インタビュー」というコラムのコーナーに掲載しました。
『イニエスタとの会話』
「やあ、顔色が悪いね」
「うん。で、キミは誰?」
「レッズサポだよ。デカくもないんだね」
「うん。身長は170センチ。むしろ小さい。で、レッズっていうのはどこのチーム?」
「しかも細い。こんなフィジカルでよくプロのピッチに立てたもんだね」
「キミはケンカを売りにきたのかい?」
「インタビューだよ。それからレッズというのは日本のフットボールチームさ」
「オシムが代表監督をしてる国だね」
「オシムは辞任した。とても残念なことにね。脳梗塞。不幸な発作だった。顔色はわりあいに良かったんだけど」
「どうしても僕の顔色について話がしたいんなら、これは生まれつきだよ。色白なんだ」
「白いというより、黄色いね。しかもアオい。まるでレタスの芯だ」
「うん。小さい頃よくいじめられたよ。血色が悪いって」
「どうしてそんな顔色でサッカー選手になろうと思ったんだい?」
「やっぱりケンカを売りにきたんだね」
「違うよ。ライターっていうのは原稿を売って反感を買う商売なんだ。イヤな稼業だよ」
「いまのはジョーク? それとも愚痴?」
「警句だよ。で、どうしてサッカー選手になったのだね? そんなフィジカルで」
「重要なのはフィジカルじゃない。顔色でもない。スピードでもパワーでもない。フットボーラーの命運を決するのはスキルだ。あるいはテクニック。わかるかい? 卓越した技巧だけが局面を打開する。あるいは正確な技術があれば、ピッチの上のどんな場所でも敵を恐れる必要はない。そういうことだよ」
「なるほど。ということは、軽くて小さいうちの国のフットボーラーも、努力すればワールドクラスになれるってことだね?」
「もちろんだ。弱くて低くて遅くても大丈夫。スキルが超絶的であれば」
「顔色が貧血のウサギみたいでも?」
「全然大丈夫。起き抜けのナメクジみたいな顔色でもスキルがあれば心配ない」
「怒らないんだね」
「うん。冷静さもぼくの持ち味の一つだ」
「感心したよ。少なくともメンタルはディエゴよりずっと強い。ロナウドよりも」
「ありがとう。スキルとメンタル。フットボーラーにとっての二つの宝物だ。この二つがあればどんなハンデがあっても心配ない」
「顔がせんだみつおに似ていても?」
「もしかして、シャビの話をしてる?」
「どうしてせんだを知ってるんだ?」
「スキルとメンタル。それから、情報収集能力と洞察力。フィジカルを埋めるためには様々な要素が必要なのだよ」
「キミをバロンドールに推薦しておくよ」
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