« 刮目して食べる人々 | トップページ | お知らせ »

2009/03/24

落語会の手帖

 談笑師匠が律儀にもコメント欄に顔を出してくださったので、私も、感想を述べておくことにします。律儀者のコダクローム。

 午後7時より、西新宿にて落語観賞。
 先日、平川さんからチケットをいただき、「今回はぜひ」と、強力に薦められておりましたので。
 ええ、プレッシャーを感じました。
 これまで、3回ほどチケットをいただきながら、いずれも落語会の当日までに期日を失念していて、貴重な切符を結局無駄にしてましたから。なんという罰当たり。不義理。KY。

 で、午後五時半に、自転車で赤羽を出発。
 徐々に暗くなる山手通りをひたすら西に向かって走る。
 途中、突然の空腹。
 東中野近辺のコンビニにて牛乳とサンドウィッチを購入。
 で、駐車場の車輪止めに座っていま買ったばかりのサンドウィッチをかじる。暗がりで。黙って。たった一人で。BGMも無しに。
 異様な姿ですね。
 オレが駐車場の地主だったら通報してますね。

 開演15分前に西新宿のホールに到着。
 と、おお、入り口の前で、平川さんが談笑師匠と談笑している。
 軽く会釈をすると、師匠を紹介してくださる。
 年甲斐もなく緊張して「どうもどうもどうもどうも」と意味のわからない挨拶をして、そそくさと会場に逃げ込む。Why am I so shy? というフレーズがルー先生の歌にありました。

 演目は、立川談笑「天災」
 聞いたことのある噺だった。
 立川談志のMP3ファイルを持っているので。入手経路は内緒だが。
 基本的な話の流れは談志師匠がやっていたのと同じ。でもディテールは違う。
 八五郎の性格描写は同じ。
 でも、ディテールはやっぱり違う。その違いが興味深い。同じハナシでも、語り手の声質や演出の如何で、印象がまるで違って聞こえる。面白い。

 八五郎が道学者の話を崩して語る時の崩しっぷりも独特。ほとんど原型をとどめないぐちゃぐちゃな崩しようが見事。
 とても面白かった。

 この後、米粒写経という早稲田の落研出身だという漫才の人たちが、30分ほどネタをやる。
 これも面白かった。
 しゃべりのテンポが良くて、私は好きだ。
 関西の匂いがしないのも良い。
 でも、内容がハイブローなので、テレビには乗りにくいかもしれない。
 まあ、無理矢理に乗ることもないわけだが。

 再度談笑師匠が登場。
 途中で、
「あれ、これって、もしかして芝浜か?」
 と、気付く。
 3ヶ月(あるいは半年ぐらいたっているかもしれない)ほど前、NHKのBSで立川談志特集をやった時に、このハナシがクローズアップされていたのを覚えていたから。
 でも、設定はまるで違う。
 談志バージョンでは、江戸時代の大工だった男が、談笑版では、現代のトラック運転手になっている。
 無理筋といえば無理筋。
 でも、強引にハナシにしてしまう。見事。
 で、時代とキャラをいじった以上、当然、設定はなにからなにまで総取っ替えになる。
 酒浸り→シャブ中
 小判→ジュラルミンケース入りの現金
 で、主人公は暴走族の特攻隊長あがりということになっていて、女房も元をたどればレディースの総長。
 ちからづくのちからわざ。見事。
 さらに、これは談志バージョンにはなかったサブストーリーだと思うのだが、女房が援交で稼いだカネでシャブを買うみたいな展開もあったりする。
 シャブを打つ場面の描写(血管を叩いて浮き出させるあたりの演技があまりにもリアル)や、途中のアドリブなど、到底テレビにはかけられないだろう。
 その他、宗教や企業や民族ネタのアドリブもほぼ全面的にカットでありましょう。
 とにかく面白かった。
 落語は基本的には大好き(なにしろ生まれて初めて買ったレコードが「笑点音頭」で、憧れのスターが王でも長嶋でもなく、立川談志である、そういう小学生だったわけですから)なのだが、寄席に行こうというふうに思ったことはこれまで一度もなかった。
 どうしてなのだろう。

 大学を出てからこっちの30年間、私は、映画館にも寄席にもほとんどまったく足を運ばなかった。演劇もほぼ知らない。
 これは、考えようによっては、お手柄だ。
 どうせ、この先、本はあんまり読めなくなるからだ。老眼も進むし、根気も無くなってくるわけだからして。
 とすれば、未見の名画と、未知の落語をヤマほど持っていることは、こりゃひと財産ですぜ。パチパチパチ。

|

« 刮目して食べる人々 | トップページ | お知らせ »

コメント

おお、シャブ浜だったんですね。それはいいものをご覧になりました。シシカバブ問答とかもお勧めです。
談笑師匠とオダジマさんって本ネタは電波無理なとこが共通項かしら。
喬太郎師匠とかも、ぜひ。

投稿: koz | 2009/03/24 10:52

電車の中でハンバーガーを喰う。

そのための携帯性しょ、なんつか

東京は以前よか田舎化してるとオモ。90年代よりも。

投稿: IE8遣い | 2009/03/25 11:19

m9(^Д^)プギャー 失礼ですが、立川談志一門の(比較的)若手と言えば、立川談春>志らく>>>談笑ではないでしょうか?
 自伝風エッセイ『赤めだか』は野坂昭如が激賞した兄弟子立川談四楼師の『シャレのちくもり』に勝るとも劣らぬ出来と見受けられますが。

投稿: あおきひとし | 2009/03/25 17:55

学生の頃は、寄席に行くくらいならストリップに行ってました。
以来30年、自分も寄席に行ったことはありません。

当時は若さゆえの合理的な選択でしたが、五十路に入った今でも、寄席に行く気分になれません。
ナマの、こう、一期一会ゆえの臨場感とか、テレビじゃ無理なネタが聞けるとかの希少さがあることは分かりますが。

歌舞伎とか落語って、見巧者がやたらといそうで、ちょっと敷居が高いからです。

「○○さん、落語好きなんだって?」
「ええ」
「誰が好きなの、ハナシカ?」
「談志、ですかねえ」
「ふうん。あんた、三木助の初芝、きいたことねんだろ?先代の」
みたいな人々。

「ゴルフ始めたんです」と言ったとたん、教え魔がうわっと蝟集してくる感じの時と、不愉快さがちょっと似てます。

そういうのがイヤなんで、落語は寄席にも行かず、ひそかに娯しんでます。
もっぱら、テレビ放送の録画で。

地下室に祝儀袋を隠してたり、「天皇の世紀」を読んだことを自慢してるような人の回が間違って録画されてたら、見ずに消去してますが。

ま、イイ落語はどうしたってイイんで、テレビで好みの落語家が見つかったら、その人のCDとかDVDを1枚づつ集めていく、という、慎み深い方針で、私は行きたい(笑)。

投稿: よし | 2009/03/27 02:07

談笑師匠といえば『ザ☆ネットスター』での喜屋武ちあきや東浩紀に挟まれて影の薄い司会、というイメージしかなかったのですが。
本業もおろそかにされてなかったんですね(笑)。

投稿: Noisy | 2009/03/27 12:18

今月の「週刊文春」で清野徹さんの訃報を知りました。
小田嶋さんがナンシー関さんのことを深く理解され、彼女死を悼む文(「テレビ救急箱」)を読んで、ここにこんな方がいたと安心いたしました。小田嶋さんは清野さんについてはどう思われていたのでしょうか。
ナンシー亡き後、小田嶋さんを知って良かったと心から思っています。清野徹さん、残念です。

投稿: gomame | 2009/03/28 02:32

初めまして(^-^)v
応援してま~す。

頑張ってくださぁい(^o^)/♪

投稿: えりな | 2009/04/07 00:01

アサヒ芸能のコラム読みましたが、ドイツW杯で日本が3連敗というのは間違いです。
正しくは1分2敗です。
イメージとは恐ろしいですね。
それはそうと、なぜ、「3連敗」を招来したジーコ時代。
世にあふれていた、「ジーコは自由なサッカーを目指している」風の与太話を批判でき中田のですか?
ジーコはそんなこと言っていないのに。
「自由」とか言われると、青菜に塩になっちゃうのですか?
小田嶋さんも、2002のころは中田英に平伏していて、後になって批判しだしたのですが。
ほかに期待できる人も少ないしがんばってほしいのですよ。

投稿: あ~胸糞悪い | 2009/04/10 01:04

TVを観ていると最近のお笑いは退屈だと感じることが多いのですが、もしかすると自分が知らないだけで面白いものはまだまだたくさんあるのかもしれないですね!
談笑さん…俄然興味がわきました。

投稿: 江 | 2009/04/10 15:15

森田知事批判、イイですねえ。
だいたい、早瀬久美さまを君付けで呼んでたのが違和感ありました。こいつ。
「貴様は参院議長か。このブルー・スカイ野郎!」って感じです。
歌は好きでしたけど。ええ。

投稿: よし | 2009/04/16 04:03

連投すいません。

>漢字一文字で言うなら…

読めません。いわんや麻生さんにおいてをや。

うーん。「ケモノヘンに各」かあ。
見たことある漢字のような気もしますが、なんて読むのか、ちょっと出てきません。

いろいろ考えました。

「ヌエ」 違いました。
「イタチ」 は、二文字だったよなあ。 
「ヒヒ」 これも違うだろ。
トドじゃ海獣だし、モモンガでもムササビでもなさそう。

漢和辞典、部屋のどこかにあるんですが、いま見つかりませんので、陸生の面妖なケモノという以外、見当つきません。

降参です。ご教示を。

動物の名前といえば、少し前の日経新聞で「ダチョウはラクダと同様に首が長いので、駱駝の駝の字をとって駝鳥」というコラムがありました。

ほお。首の長さを麒麟(キリン)になぞらえていたら麟鳥(リンチョウ)になってたのか、と思いました。

投稿: よし | 2009/04/29 02:22

連投すいません。

>漢字一文字で言うなら…

読めません。いわんや麻生さんにおいてをや。

うーん。「ケモノヘンに各」かあ。
見たことある漢字のような気もしますが、なんて読むのか、ちょっと出てきません。

いろいろ考えました。

「ヌエ」 違いました。
「イタチ」 は、二文字だったよなあ。 
「ヒヒ」 これも違うだろ。
トドじゃ海獣だし、モモンガでもムササビでもなさそう。

漢和辞典、部屋のどこかにあるんですが、いま見つかりませんので、陸生の面妖なケモノという以外、見当つきません。

降参です。ご教示を。

動物の名前といえば、少し前の日経新聞で「ダチョウはラクダと同様に首が長いので、駱駝の駝の字をとって駝鳥」というコラムがありました。

ほお。首の長さを麒麟(キリン)になぞらえていたら麟鳥(リンチョウ)になってたのか、と思いました。

投稿: よし | 2009/04/29 02:22

>よし様

わたしが答えちゃっていいのかしら。
「むじな」です。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000258/files/42928_15332.html

このタイトルは旧字体ですが。
昔からキツネ、タヌキと並んで日本人を騙すけものたちでした。
出しゃばりだったらごめんなさい。

投稿: 陰陽師 | 2009/04/30 12:52

>陰陽師さま

おおっ!「むじな」でしたか。なるほどなるほど。

最新の小田嶋先生の「ナンボのもんじゃい」の締めが、やっと理解できました。
ご教示ありがとうございました。

この語の典拠に引かれた小泉八雲の文章を読んで、岡本綺堂の怖い随筆を思い出しました。
小泉八雲は「怪談」しか読んでないんですが、「怪談」の中で自分が最も怖いと思うのは、赤ん坊を背負った母親がカネのために肝試しを敢行し悲劇に会う、という話です。

なんか、妙な話になってしまいました。すみません。

投稿: よし | 2009/05/02 02:34

はじめまして、ぷりんと申します。
いつも、ブログ楽しみにしています。
これからも応援していますので、
頑張って下さい。

投稿: ぷりん | 2009/06/15 23:00

ゲーラボ7月号拝見しました…

てやんでえモードが上昇しているような…

執筆誌を掲載していただいたらイッショウケンメイ追っかけてヨムマスので

よろしかったらパートナー。

投稿: Mebius遣い | 2009/06/20 18:55

「きょう、マイケルが死んだ」

先生、どっかでひとつ、お願いします。

投稿: よし | 2009/06/28 06:53

「きょう、マイケルが死んだ」

先生、どっかでひとつ、お願いします。

投稿: よし | 2009/11/19 23:05

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 落語会の手帖:

« 刮目して食べる人々 | トップページ | お知らせ »