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2008/09/14

プギャーの死

 12日の昼過ぎ、晋遊舎のT氏より電話。
「ご相談というか、ご報告なんですが……」
 いやな予感。
 なんとなく、声のトーンから伝わってくるものがある。それと、会話の間、ないしは「沈黙」を通して、のっぴきならない何かが。
 沈黙は雄弁だ。電話線を介してさえ。
 ライターが苦心して醸し出しているつもりでいる「行間」や「余韻」は、多くの場合、ほとんどまったく何も語っていない。が、受話器の向こう側のほんの2秒ほどの沈黙は、大方の事情を語り尽くしている。
 わかりました。Tさん。短い間でしたが、お世話になりました。まだ何かの機会にどこかでご一緒することがあったらその時はよろしく。ええ、決まり文句ですが。私たちの世界は、ずいぶん昔から、こういう決まり文句が無いと先に進まなくなっているのですよ。
「残念ながら、m9は休刊ということになりました」
 了解。
 前日に、このブログで雑誌の廃刊が続いている件について書いたのは、やはり虫が知らせたということなのかもしれない。

 「m9」誌は、今年の5月から隔月で出ていた雑誌だ。「えむきゅー」と読む。
 含意は「プギャー」。@2ちゃんねるでおなじみのAA(アスキー・アート:文字と記号のみで作られた絵文字)だ。人差し指でこっちを指さしている時の手の形をあらわしている。
 より明示的な形では、
m9(^Д^) プギャー 
 という表記になる。ムカつく絵文字だが、私は好きだ。

 最初の打合せの時に、
「これ、もしかして《ぷぎゃー》ですか?」
 と尋ねたら、担当のT氏は
「あ、やっぱりわかりましたか(笑)」
 と、嬉しそうに笑った。
 私も嬉しかった。いや、こういう文字が雑誌名になるなんて、面白い時代に足を踏み入れたものではないか、と。
 雑誌の内容は、《時代を読み解く新世代「ライトオピニオン」誌》と銘打っている通り、最近の若者向け雑誌の中ではちょっと硬派なノリだった。
 が、部数は期待していたほど伸びず、結局、通算で3号を出したところで、早めの撤退を判断することになったようだ。
 私は、スポーツコラムを担当していたのだが、連載は3回で終了ということになった。残念。あれこれとしがらみや制約の多い大手の雑誌からは発信しにくいプギャーなご意見を存分に吐き出す覚悟でいたのだが。
 スポーツジャーナリズムの世界は、メディアと競技団体と興業組織と選手会と専門ライターが、まるで互助会みたいに肩を寄せ合って生きている、金魚鉢みたいな世界だ。それゆえ、水中生活に慣れたえら呼吸のできる人間以外には、取材パスがまわってこない仕組みになっている。
 で、私のような部外者のライターは、金魚鉢の外から見ると、金魚たちの泳ぎがどう見えるのかといった視点で、記事を書いていたわけなのだが、そういうご意見は、残念なことに、あんまり需要がない。
 というのも、読者もまたすべては金魚鉢の外に住んでいる存在で、価値ある情報は、水の中にしか無いと思いこんでいたりするからだ。
 うん。負け惜しみだけどさ。

 惜別の挨拶として、以下、m9に掲載したコラム(「横綱ニュース審議委員会」)の初回分原稿を転載しておく。

 はじめまして。当欄で「横綱ニュース審議委員会」というコラムを連載することになったオダジマです。
 最初に、連載の趣旨などを。
 横綱審議委員会については、ずいぶん前から違和感を抱いていた。プロのアスリートである者の競技資格や資質について、専門外の年寄りが、あーでもないこーでもないと文句をつけているわけだから。いや、文句をつけるのは良いのだ。われわれ一般のファンとて、自らの貧弱な肉体を省みずに、選手たちにあれこれと注文をつけたりダメ出しをしたりしている。それがスポーツを見る愉しみであると言えばそれまでの話だからね。
 問題は、横審の人々が「上から目線」で力士の品格を問うているその立ち位置の異様さだ。一体、何の資格で彼らは、横綱の「品格」や土俵の「美」を云々しているんだ? 彼らは相撲の専門家なのか? せめて若い頃に村相撲で横綱を張っていた程度の競技経験は持っているのか? 
 否。横審メンバーズは、どうにもならない素人だ。というよりも、そこいらへんの有名人に過ぎない。新聞社の社長、大学の教授、あるいは流行作家だとか。俗世の虚名を享受しているセレブ以上のものではない。で、その個々の委員たちの資質について審査する機関が、あるのかというと、なんということだろう、そんなものは存在していないのだ。
 べらぼうな話だと思う。
 なので、私がそれをやろうと決意したわけです。「横綱審議委員みたいなものに関する資格審査委員会」、あるいは「スポーツ報道の真偽を考える一人審議会」、ないしは「これで良いんかいてなことについてマジで考える委員会」でも良い――こういう問題について、右顧左眄の、横並びの、審議アタマで意見を調整するのではなく、ニュース、スポーツおよびメディアやその他あらゆる事象について、委員会を通すことなく、審議なんかせず、個人のアタマで考えよう――「世間」の「空気」や、「社会」の「風」を読むのではなく、個人の独立したアタマで考え、個人として責任を取ろうじゃないか、と、かように考えて一人審議会を立ち上げた次第なのである。よろしくよろしく。
 てなわけで、初回は、五輪の話をする。ゴリゴリの五輪押し。
 メディアの声は、日々ブレている。というよりも、事実上「声」なんかありゃしない。ただ、海外報道が反響しいるだけだ。
 たとえば、「報道ステーション」の古舘伊知郎は、毎日ちょっとずつ立ち位置を変えつつ、まったく定見を示さないカタチで、この件から逃げようとしている。
「暴力はいけません」
「五輪は平和の祭典です」
「オリンピックに政治を持ち込むのはタブーだよね」
「聖火妨害って、野蛮じゃね?」
 などと一方の正論を吐きつつ
「人権はかけがえのないもの」
「チベットに自由を」
「五輪は意志表示の場でもある」 と、もう一方の側からの正論を提示していたりもしている。
 結論として、古舘はどっちに立っているのだろう。北京五輪を支持しているのだろうか。それとも、チベット人民の抗議を支持し、北京政府の弾圧に疑義を表明しているのだろうか?
 どっちでもない。
 いや、古舘に限った話ではない。
 ほとんどすべての局のキャスターは、「平和の祭典の成功」と「チベット人民の幸福」と「人権の拡張」と「秩序の維持」を共に願うみたいな立場に立っている。
 まあ、アレですよ。コギャルさんたちが考える「満腹と減量の両立」みたいな話です。地球温暖化について説教をカマしつつ私生活ではベンツのゴーマルあたりを乗り回しているキャスターさんたちからすれば、北京政府の思惑とチベット人民の願いをダブルで請け合うぐらいな態度は朝飯前、と。
 面白いのは、本件に関しては、リベラルVS保守、左翼対右翼、人権派バーサス公権派、親中or嫌中or親米or反米といった、従来の色分けが無効になっている点だ。
 だから、親中と見なされていた人権寄りの左派ジャーナリストが五輪開会式ボイコットの声明に賛成していたり、逆に、保守派の論客である元スポーツ選手がガチガチの親中五輪擁護発言を繰り返していたりする。
 おそらく、この先、様々な問題について、単純な色分けはますます困難になって行くことだろう。
 ま、その方が正常なのだが。
 さて、山中秀樹だ。
 私がウォッチングしていた中では、このヒトの意見が一番はっきりしていてわかりやすかった。
 要約すれば、「商売に政治を持ち込むのはよそうぜ」ぐらい。
 いや、言葉に出してこう言ったわけではない。テレビ局の立場を代弁して、「平和」だの「人権」だのという言葉を使いつつ、そういうカタい話ともかく、なんであれ「祭り」を成功させたいよね、てなことを大強調していたわけ。
 そう。テレビ局はぜひとも五輪で商売がしたい。家電業界も同断。そのほか五輪のスポンサーになっている各種飲料メーカーやサービス産業も、本心では、五輪営業を成功に導こうと必死になっている。
 平和=ピンフの祭典=国士の反対、と、そういうことだろうか。
 そういえばパチンコ業界にも「平和」という名前のメーカーがあったな。あるいは、オリンピックをめぐる議論の外形は、パチンコ愛好家からの搾取で成り立っているパチ屋が、案外パチンカーに支持されていたりする構図と似ているのかもしれない。
 開会式に南京虫をバラ撒くのとかどうだろう。南京虫テロ。
 で、痒痒式とか。胡錦涛は笑ってくれないだろうな(笑)。


※「m9」vol.1(2008年6月1日発行)掲載
 

 ところで、ご存知の方は既に知っていると思うが(って、同語反復だな)、8月から、アサヒ芸能(週刊誌)で、2ページモノのスポーツコラムがスタートしている。
 気が向いたらそっちも読んでみてください。
 

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コメント

3号雑誌。
いやな言葉ですが、勲章と思っていいことなのでしょう。きっと。

投稿: koz | 2008/09/15 11:02

>何の資格で彼らは、横綱の「品格」や土俵の「美」を云々しているんだ?

戦後になって没落した、吉田司家(大相撲の有職故実と横綱免許の家元)の代わりが横審だといういきさつを考えれば、不遜な態度自体は当然でしょうね。
中身はともかく。

投稿: 康村浜宏 | 2008/09/15 21:45

公式発表する前にエラそーにブログに書くな!へたれ。

投稿: つかこう | 2008/09/16 02:41

m9とかアサヒ芸能とか、一流雑誌の仕事ばっかですね。

投稿: m9(^Д^)  | 2008/09/16 04:22

古くからの読者です。
掲載誌が分かっていれば、ぜひ、追いかけたいと思っています。
今は、「アサ芸」なんですね。
早速、手に取ってみます。

投稿: 愛読者 | 2008/09/16 19:13

かつて「噂の真相」が健在だったときの特ダネの流れ方

「噂真」に載る
   ↓
「東スポ」「アサ芸」が後追いする
   ↓
他の出版社系週刊誌(特に新潮・文春)がさらに後追いする
   ↓
しかたなく全国紙が追認

ま、途中のプロセス抜かす場合もありましたが、「アサ芸」がある意味一流誌であることはまちがいない。

投稿: かくた | 2008/09/18 04:43

開催があやぶまれていた頃

2ちゃんでおーあばれすてますた

開催阻止派が透けて見えたので。

無事おわてよかたよかたナカータ

もすこーおりむぴくがいちぢるしくしらけた野茂りゆうれす。

投稿: ざうるす遣い | 2008/09/20 14:13

http://www.cyzo.com/2008/09/post_960.html
の記事を読みました。
この記事での内容自体が本当かは分かりませんが、

「私から見ると中田は現役時代からサッカーをバカにしていたフシがありましたね。だから、SSUや広告代理店の人たちにシンパシーを抱いており、引退することもチーム関係者やチームメイトよりも先にSSUに伝えたんだと思います。周囲の人たちに文才やビジネスセンス、ファッションセンスなどをおだてられた結果、サッカーよりもビジネスに執着するようになってしまったのでしょう」

という小田嶋様のコメントに少し唖然としました。

サッカーを馬鹿にしている人が、日本代表がフランスワールドカップ出場を決めた瞬間に、浮かれている代表選手、監督をよそに、Jリーグの心配をするでしょうか!?

サッカーだけしか知らない人間になりたくない!という中田の想いは一貫していて、それはファンである自分にも伝わります。
サッカー選手がビジネスをしたら駄目ですか?
現に私はJFAの組織の方と関わっていますが、サッカーしかしてこなかったJリーガーの社会復帰は難しいとのことです。

その中で自分自身で責任を背負い、生涯設計をしている中田に対してのこのコメントは小田嶋様がサッカーに精通しているとは思えません。

もし、この内容が本当でない場合は、大変失礼なコメントをしましたことをお詫びいたします。

投稿: hiroki | 2008/09/22 21:36

本日の読売新聞の朝刊社会面、「(次期衆院選は)どんな戦いになるか、識者に聞いた」という記事で、政治心理学の教授につづいて小田嶋さんが出てきたのには、軽く驚きました。これでもうひとりが、神戸あたりの文学部教授だったら「読売は神!」だったのに(笑)

投稿: kettsu | 2008/09/23 13:45

hirokiさんと同じようにその記事を拝見しました
小田嶋隆氏コメントは本当ですか?
本当だとしたら残念です

投稿: Sk | 2008/09/23 15:46

中田英寿みたいな、プレーよりも言動で注目される選手というのは昔からいたが、これほど極端なのは初めて。
その言動に幻惑されて、プレーから何から、あらゆる点を肯定しないと気がすまない馬鹿というのも昔からいる。
そして、本業ではほどほどでも極東ローカル島国の馬鹿どもを誑かしてやっていける(事に気づいた)のだった。
(「無限大のボール」コラム氏は、この辺の妖しさちゃんと分かっていたようだが)

>違うのだよ、カネコくん!
しかし、金子の妄言を裏書する存在にまで踏み込まないと、力は半減だ。

今さらですか? 小田嶋さん。
残念だな。
少しは影響力が落ちた今じゃなくて、別宝リアルの時にでもやってれば素晴らしかったのに。


>日本代表がフランスワールドカップ出場を決めた瞬間に、浮かれている代表選手、監督をよそに、Jリーグの心配をするでしょうか!?

同じ人物が、己を際立たせるために、取り巻き連中に日本のサッカーや日本をけなしまくる言辞を垂れ流させた事実と矛盾が目に入らない人がいるようで。
やはり、オウムか自己啓セミナーに嵌る連中と同類であることが分かる。

投稿: あ~胸糞悪い | 2008/09/24 00:13

擁護していた村上龍は重罪ですかな。
また穿った見方をすると、中田をパッシングして記者達の言動が正しかったと言っているようにも見える。

投稿: となると | 2008/09/24 07:19

To hirokiさん

リンク先の記事読んでみましたけど、小田嶋さんが、SSUその他との絡みも含めて俯瞰で見た結果というだけでしょ。
hirokiさんが唖然としちゃったのは、hirokiさんの想い描く中田像と違うからであって、小田嶋さんのサッカーへの造詣は関係ないのでは?

もうちょっと言えば、小田嶋さんはサッカーに精通していないのではなく、中田の私生活や人生哲学に精通していないだけかな、と。で、中田側べったりが好みなのであれば、小松某なり村上某を読んでいればいいのでは、と思ってしまったり。。。何だか、

>私のような部外者のライターは、金魚鉢の外から見ると、金魚たちの泳ぎがどう見えるのかといった視点で、記事を書いていた
>読者もまたすべては金魚鉢の外に住んでいる存在で、価値ある情報は、水の中にしか無いと思いこんでいたりする

という、このエントリの本文まんまの現象で興味深かったデス

以下、例え話。。。
地元のクラブは万年J2の中~下位のグループ。「もうチョイ運でもあれば」とか言って強いとは言えない地元クラブを手弁当で応援する人たち。そんな熱心なサポーターへ、

> サッカーだけしか知らない人間になりたくない!
> サッカー選手がビジネスをしたら駄目ですか?

という選手たちの声が漏れ聞こえてきました。さて、どれだけの人が「サッカーも頑張ってるし、まぁねぇ…」「イヤイヤ大事な第2の人生に向けて、サッカーやってる場合じゃないって」「これってNakataism? 超Cool!!」などと納得してくれるのでしょうか?このクラブの行方やいかに??

ついでの揚げ足取り、、、

> 現に私はJFAの組織の方と関わっていますが、サッカーしかしてこなかったJリーガーの社会復帰は難しいとのことです。

引退後の所謂「第2の人生」を指して、『社会復帰』などと表現しちゃだめでしょ。ホントにこれを組織の方が仰ったのであれば、選手の心配より組織の意識改革が先でしょうに

以上、長文失礼をば

投稿: うん、国際派 | 2008/09/26 15:17

在日なことで甘ったれてるカスなことはまだいい、統一で居留事由が消滅団体帰国だから。

ゴンを呼び捨て?

お前がその後ちっとも期待に応えれなかったきっかけじゃないのかな。

だが嫌いじゃない。60代以上が本当に 心の底から クソッタレなのは本当のことだ。だからつるむなよ。である。

投稿: BIGBLUE遣い | 2008/10/15 09:19

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