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2008/07/05

荼毘転

 7月4日をもって、「ダビング10」が解禁になったのだそうで、新聞各紙およびテレビ各局は、いまさらのように告知につとめている。
 解説の内容は、各局とも

「デジタル放送の番組を録画(ろくが)機自体に録画して、そこから最大10回までDVDなどにコピーできる仕組みのこと。現在は1回コピーすると録画機からは消えてしまいます。」

 という、朝日新聞が小学生向けに用意した解説ページ(朝日キッズ)から一歩も外に出ていない。

アサヒ・コムきっず:ダビング10(てん)とは? :ことばなるほどね

 私が昨日偶然見ていた「思いっきりイイ テレビ」では、女子アナさんが
「たとえば、私が『思いっきりイイ テレビ』をハードディスクに録画していたとします。これまでは、自分でDVDにコピーするとハードディスクから消えてしまうので、録画を頼まれた人に配ったり、みのさんに見て貰ったりはできなかったのですが、これからは、10枚までDVDに録画できるようになるので……」
 てな話をしていた。
 でもってそれを、みのもんたが
「一緒に見れば良いんじゃないの?(笑)」
「……ええ、まあ、ははは」
「ね。一緒に見れば良いんだよ、一緒に。そうだろ?」
 と。なんだか、セクハラっぽいジョークでまぜっ返して次の話題に流れていた。

 ま、そういう扱いなわけですわ。

 「ダビングが10回」という情報自体に、間違いはない。
 が、本当のことを言っているわけでもない、とオレは思うぞ。

 ダビング10を解説する上で重要なポイントは、

  1. 編集ができない。
  2. 孫コピーができない。

 の2点だ。ダビング回数は周辺情報に過ぎない。
 なぜというに、録画したものを丸ごと無編集でダビングすることしかできない以上、それが1回であれ、10回であれ、本質的な差はないからだ。

 テレビの解説をうっかり聞いた人は、ダビング回数が10回に増えたおげで、10倍自由になったみたいに思うかもしれない。が、そんなことはありません。ユーザーの側の利便性は、せいぜい1.5倍ぐらいにしかなっていない。

 編集・加工ができないということは、「鵜呑み」を強いられているということに近い。煮てもダメ、焼いてもダメ。もちろん噛むのもダメ。ただただ、皿の上に出てきたカタチのまま、丸呑みにしろ、と、シェフはそう言っているのである。
 具体的には、録画しておいた番組について、丸ごとDVDに焼くか、丸ごと捨てるかの、いずれにしても不本意な処理法以外に、有効な選択肢が許されていないことになる。

 たとえば、「スーパーサッカー」を録画しておいたとする。
 あのテの番組は、枠自体は45分だが、後々残しておきたい部分がどれほどあるのかというと、せいぜい10分に過ぎない。まあ、個人差はあるだろうが。
 内訳は以下の通り:CMを除けるとそれだけで35分ぐらいになる。さらに、野球やバレーボールのコーナーを除外すると25分。で、その25分の中から、クソ甘ったれたアシスタントのねえちゃんのチアガール挑戦企画だとかをケズると残りが10分。つまりそこだけ見れば十分。そういうことだ。
 が、これを、我々は、丸ごとDVDに焼かなければならない。
 CMカットさえできない。
 アタマから最後まで、見たくもないCMや余計なトークや、クソ面白くもないスタッフ慰安企画コミコミで、すべてダビングするほかに方法がないのだ。

 編集もできない。たとえば、捨てることになっている負け試合の録画VTRから、田中達也のファインゴールだけはピックアップして残しておくとか、録画済みの50本のサッカービデオの中から小野伸二ベストプレイ集を作るとか、そういうこともできない。

 加工もダメ。
 ゴール集映像をスロー再生して、それに自作の音楽をカブせてオリジナルのビデオクリップを作るとったような作業ははまったく不可能になる。録画済みのシーンを録画共有サイト(YOUTUBEとか、ニコニコ動画とか)にアップすることもできない。
 つまり、なんにも出来ないわけだ。
 で、メディアは、このことを伝えていない。
 ひどい話だと思う。 

 以下、参考までに、2004年時点での原稿を掲載しておく。
 事態は、4年前からまるで進んでいない。
 っていうか、より凶悪化した状態で固定されつつある。合掌。

 奇妙なニュースをひとつ。
《日枝久・日本民間放送連盟会長(フジテレビジョン会長)は12日の記者会見で、DVD録画再生機を使ってCMや見たくない場面を飛ばして番組を録画・再生することが、「著作権法に違反する可能性もある」と述べた。電機メーカーなどに何らかの対応を求められないかを検討するため、民放連で研究部会を設けた。》
 意味がわかりますか? 私には全然わかりません。先を読んでみましょう。《高性能のDVD録画再生機は、見たくない部分を自在に飛ばす「編集」ができ、CMカットも容易に出来る。日枝会長は「放送は1時間すべてが著作物と考える学者もいる。いろんな問題を含んでいる」と語った。》
 えぇぇぇぇえ? って感じだよね。
 ついでに背景説明。
《十数年前に三菱電機などがCMの自動カット機能付きのビデオ録画再生機を売り出した時も、民放連は販売抑止などを働きかけた。この時は広告主でもあるメーカーがカット機能を手動方式に変えるなどした》(朝日11月12日)
 ……と、結局、記事全文をアタマから十回読んでみても、いまだに私は、事態を飲み込めずにいる。私のアタマがタコなのか、記事がタコなのか、それとも、タコはテレビをめぐる現実そのものに取り付いているのだろうか。
・編集って著作権侵害なのか?
・だとしても、CMカットが編集かよ
・で、つまり、アレか? CM中にトイレに立ったりすると誰かの著作権を侵害することになるのか?
・「放送は1時間すべてが著作物と考える学者もいる」って、誰だよそいつは?
・泣く泣くCMまで丸録りしたとして、だ。それじゃあ、見る時に早送りとかするとおまわりさんにつかまるのか?
 ……疑問は尽きない。
 が、つまるところ、唯一の疑問は、
・地上波民放局は、どうしてこんな無茶な理論武装をしてまでCMカット機能に抵抗するのだろうか
 という一点に落ち着く。
 もしかして、「スポンサーがCM枠を買い取って、その宣伝費でもって番組を無償提供する」という枠組み自体が、行き詰ってきているのかもしれない。
 だよな。実際、オレら視聴者だって、昔みたいにテレビのCMを鵜呑みにはしてないわけだし。
 それでなのかどうなのか、テレビにおけるCMの扱いは、ここへ来て明らかに異常になってきている。
 CMの時だけ音量が上がるようになったのは、もう20年も前からの話だが、最近では、CMを見せようとする手口にさらなる陰険さが加わっている。
1.釣りテロップ:「CMの後、驚愕映像が……」みたいなアオリのテロップを送出→2分間のロングCM→何が出るのかと思ったらエンドロールだけ。
2.待たせまたぎ:クイズ番組や手品の種明かしコーナーで、答え部分をCMの後に持ってくる手口。
3.ギロチン切り:主にVTRもので使われる手法。異様に切れの悪い場面で、何の前触れもなしに突然CMに入る。
4.振りかぶり:ドラマ、アニメなどでよく使われる手口。「越前リョーマがラケットを振りかぶ」った瞬間にCM入り。
5.ブーメラン再生:CM明けの時、CM入り時点から5秒ほど戻ったところから再生する。ザッピング対策、あるいは、単なるVTRの尺稼ぎだろうか。
 なるほど。もしかして、オレらが見ているテレビは、CMのおまけ……ん? そんなのは常識? じゃあオレがやってる仕事はおまけ批評で、オレはオマケクレーマーライターなのか?

2004年11月 「読売ウィークリー」掲載) 

結局、テレビメディアは、視聴者をバカにしているわけだよ。
「我々が想定している形式以外での視聴はまかりならぬ」
 と、彼らはどうやらそういう意味のことを言っている。
 
 何様だ?

 本来、著作権というのは、複製版を営利目的で大量販売する海賊版業者みたいな悪党から、著作者の生活と権利を守るために発想された権利であって、そもそもユーザーの私的複製や、私的な編集をさまたげるものではないはずのものだ
 が、デジタルコピーの簡便さ(と劣化の無さ)に過剰反応しているのか、ここ数年、著作権をめぐる議論は、ヤクザのみかじめ料じみた恫喝や利権団体のナワバリ争いみたいな醜い話ばかりになってきている。
でなくても、見て貰ってナンボの商売をしている人間が、観客に注文をつけるのは、本末転倒ってものじゃないのか? 

 仮に、不正コピーバージョンを販売したり、あるいは、改変版を勝手に流布している人間がいたら、その時点で摘発して罰すれば良いことで、複製それ自体や、編集そのものを配布の段階で一律に禁止するのは、筋違いである。作品観賞における基本的な条件を毀損する態度と言っても良い。
 第一、地上波の民放が流しているバラエティだとかを大量に複製したとして、そんなものに販路があると思うか?
 誰も見ないぞ。そもそもタダでばらまいてるものなんだから。っていうか、タダだからこそ付き合って貰っている、って、その程度のものだろうが。

 コンテンツ業界も、結局は自分の首をしめることになる。
 編集さえできないような制作物が、いったいどこのマニアにアピールするというのだ?

 っていうか、編集を許さないというのは、クリエイターの傲慢なんではなかろうか。
 あるいは、自分たちのクリエイティビティに自信が持てないから、彼らは編集を恐れているのだろうか。

 いずれにしても、ろくなことにはならない。
 おそらく、これで、デジタルAV家電の市場は台湾や韓国のメーカーにごっそり持って行かれることになるだろう。
 自業自得。
 イソップ童話か何かににこんな話がなかったっけ? 自らの強欲のために身を滅ぼすか犬か何かの話が。

 

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コメント

・地上波デジタル放送にコンテンツ制御はいらないよな
・総務省も、すこしはB-CAS不要論を持ち出している
・これはアナログ放送終了時の低所得者層対策かな
・チューナーが安くなってもUHFアンテナはどうするだ?
・でもB-CASなしってのには賛成するよ。
・そうすればiLINK経由でWindowsから録画再生できるし。
・コピーワンが始まる前は、みんなWindowsで録画してたし。
・メーカーが恐れているのは、むしろこっちか。
・DVD-Rとかブルーレイ-Rとかメディアを売りたいのね。
・地球に厳しいよね。
・CMもコンテンツの一部です~
・でもほとんどのCMってSD画質だよね
・CMターゲットはハイビジョンで観てない層
・じゃアナログでいいじゃない。
・VHF帯を空けて急遽やらなきゃいけないサービスってなに?
・キー局はBSデジタルもってるやん
・ほとんどが再放送と通販しかやってないだし
・でもWOWOWは3チャンネルでHD放送してほしい
・だからBSアナログは停止していいよ
・でも総務省案だと100チャンネル増やすらしい
・って事は、チューナーをまた買い替えか
・どちらにしても周波数が違うから買い替え必死か
・NHKのBS-1とBS-2をHDにしてBS-Hiは廃止らしい
・これは現行チューナーで対応できるらしい
・情報が少なすぎ
・余ったBS-Hiのチャンネルで、時間帯貸し出しとかやれよ
・コンテンツによって有料化って駄目なのか?
・そういえば、双方向って電話線だね。
・チューナーの規格変えるなら、ここは直してね

でも、おいらは総務省の強引なアナログ停止、
強制デジタル移行計画は、今の所、結果的に良かったと思う。
こうでもしないと、日本の地上波テレビ局はHD対策を一切しなかったと思うし。
最後の最後で、どんでん返しでVHFアナログ放送の停止は、
3年延長、さらに3年延長って感じで、9~12年は先延ばししてほしい。
そうしながら格安チューナーを作れるように、暗号化は解除の方向で...

投稿: 特異展 | 2008/07/05 09:11

はじめまして、いつも拝見しております。
我が家の松下製ブルーレイレコーダーは、CMカット等の部分消去機能はあります。ダビングしたものが編集できるかどうかは確かめておりませんが。HDD内でしか編集できないとしたら確かに不便ですが、まったく出来ない訳ではないので、限定的な不便さと言っていいかもしれません。
私は家電製品の販売をしていますが、現在、録画機器の需要は圧倒的に減っています。明らかに権利者や著作権団体の悪行が売り上げに現れ始めています。

投稿: kats222 | 2008/07/05 11:35

ダビング10の編集機能についてですが、

http://www.phileweb.com/news/d-av/200807/04/21403.html

HDD上で編集 (つまり一部分のカット) をしてDVDにコピーすることは可能のようです。
東芝の機種では、HDD上にオリジナルは残したままで、編集したもの(プレイリスト)をDVDにダビングすることが可能であるのに対し、

ソニーの機種では、HDD上のオリジナルを不可逆な形で編集したものをDVDにダビングすることのみ可能のようです。
オリジナルを残したままで編集したもの(プレイリスト)は、HDDから再生することは出来るけれどもDVDにダビングすることはできないようです。

投稿: まる | 2008/07/05 17:55

ソフトが最悪っす。

みたい えいがが ない!!

回復期ってもどかしいっすね。

投稿: IBM遣い | 2008/07/05 20:13

コンサート会場で「写真撮影、録音は禁止しております」というアナウンスが流れるのは、機材の音が他のお客の迷惑になるからだと思っていた時期が私にもありました。
著作権の問題だと一部演奏家から言われました。
また楽譜の複製も、厳密な音楽図書館は楽譜一枚が一つの作品だと認定しておりまして、一ページの半分しかコピーできないよう、館員にコピーを依頼することになっております。気心が知れてくると、三十分位して新たに一ページの残り半分をコピーしてもらうとかなんとか。
まぁコンサートの録音物や楽譜をコピーして地下販売する連中もいるでしょうけどね、取り締まる人には販売目的か私的目的か判断できないから、一括禁止なんでしょう。
高嶋ち○子さんなんて、ストリート上でのトークショーや書店でのサイン会で写真撮影禁止ですからね、製作会社は。肖像権の問題なのかなぁ。

投稿: 著作権(w) | 2008/07/05 21:14

うちのパナソニックのHDDレコーダーは、部分編集、あるいは番組分割の機能はありますよ。つまりCM削除したり、複数の番組の欲しい箇所だけDVDにダビングできます。プレイリスト機能、つまり元を丸ごと残したダビング機能はありません。

いずれにせよ、不便極まりないことに変わりはありません。個人の私的利用の範囲でこんなに制限を受けるなんて、個人の自由を奪う憲法違反なんじゃないんでしょうか(笑)。いや、笑い事ではなく、本当にそう感じます。

投稿: るいがる | 2008/07/06 03:55

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