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2008/02/11

スルー力

 ネット上の言論の一部は、新手の匿名リンチ法廷みたいなものに変質しつつある。
 面倒くさい話だ。
 私自身、自分のブログのコメント欄を読むことに疲れてきている。
 いつのまにか、公設のチラシ裏みたいなことになってるから。
 あるいは痰壺だろうか。
 公道上に壺を放置しておけば、じきにそれは痰壺になる。
 当然といえば当然の展開なのだろうな。
 どうせ匿名の言論なんて、半分ぐらいは痰だの唾だのでできあがっているわけだから。
 ……きたない話になった。
 気持ちが悪いよ。自分で書いていて。
 で、とにかく、オレとしては、ある朝目が覚めたら私設公衆便所の管理人になっていたみたいな、悲しい気持ちになるのだな、ほかならぬ自分のブログのコメント欄を眺めているうちに。およそばかばかしくも胸糞のよろしくないことに。

 スルーすれば良いことはわかっている。
 でも、スルーを貫徹することにだって一定のエネルギーは要る。
 反応すれば疲れるし、かといって反応しないでいるためには忍耐力のストックが必要になる。
 返事をすれば荒れるし、黙っているとストレスが溜まる。
 つまり、徒労感と焦燥感の二者択一。
 うんざりだな。

 結局、ブログを開設しているということ自体、匿名の煽り屋連中にエサを与える作業に過ぎないのかもしれない。いまいましいことに。

 
 ブログには面白い部分もある。厄介さや面倒くささを含み置いた上で、ネットにテキストをアップすることのうちには、独特のスリルが介在していたりもする。
 わたくしどもブロガーは、そのスリルに中毒している人々であるのかもしれない。

「どうして無料のテキストを書くのか」
 と尋ねる人たちがいる。
 原稿料が発生しない原稿を書くのは、プロの原稿書きとして墓穴を掘ることになるんではないのかと、そういうふうに考える人々もいるのだと思う。
 私自身、はっきりしたところはわからない。
 ただ、文章を書くことが好きなタイプの人間は、同時に、ブログのもたらすスリルを好むタイプの人間であるということは、おそらく言えるわけで、そういうわれわれのような人間たちは、ネット言論のうさんくささや面倒くささや厄介さやくだらなさを引き受けた上でなお、そのスリルに抵抗できなかったりしている。
 ブログ上で展開される言葉のやりとりは、ナマで動いている。そこには、活字媒体に原稿を書くことによって生じる反響とはまったく別種の(←良い意味でも悪い意味でも)刺激がある。
 で、その刺激は、うまくすると有料原稿を生産のためのモチベーションとして利用……できるんだろうか。まあ、話がうまく運んだ場合、そういうこともあるのだろうが、当然、ブログ由来の刺激が執筆意欲を害するケースだってある。
 とにかく、ブログの更新のために疲労していたんでは本末転倒ですね。
 ってことで、今日はおしまい。
 

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コメント

なに本音書いちゃってるんですか。
読者のコメントが「痰」ってのは失言ですよ。
実際にはそうだとしても書いちゃいけません。
幸田久美のことをあんまり言えませんね。

コメントに不満があるようですが、我々素人では小田嶋さんの満足するようなことはそうそうかけませんよ。多くを期待しないでほしいです。
われわれの出来ることで小田嶋さんに役に立つこととしては、面白いネタを拾ってきてURLを提示するぐらいのところです。

そもそも、考えが足りない人たちがいるからこそ、小田嶋さんの存在価値がでてくるんじゃないですか? その人達に、新しい視点を提供するという存在価値が。

投稿: まる | 2008/02/11 23:43

>スル−力
心臓強くないとブログなんかやれないだろうな、と思います。
自分は心臓が弱く見えるらしく、母親が「救心」買ってきたことがあります。
閉口しました。

投稿: よし | 2008/02/12 00:30

毎回見る度に公道上のそれはおもろい壺だったりしびれるツボだったりするので私は楽しみにしています。

投稿: TINTIN | 2008/02/12 00:31

うーん、最近どうもこれまでのオダジマニアとちょっと違う人たちのコメントが増えてきたような。なんかマジっていうか……

投稿: hole in the world | 2008/02/12 01:20

うーん
剥き出しですからね。生ですよ。
快感はありますわな。
痛みも病気もありますけど。
でもゴムの中に守られていても
カタルシスは無いでしょう。
病気も怪我も確実に減りますけど。

天気がよく気持ちいいと書けば
傘工場で働く母が悲しむから謝れ!なんて
反論、まともに受けちゃぁいけませんぜ。
リテラシーつっても、TVドラマで悪役
やっている人が、私生活で赤の他人に真顔で
罵倒された時代に比べれば、狡猾な分だけ
今のほうが厳しいんでしょうかね?

投稿: slider | 2008/02/12 02:01

>どうせ匿名の言論なんて、半分ぐらいは痰だの唾だのでできあがっている

それはそうなんですけど稀に宝石もあるから僕などは2chを見てしまいます。個人ブログの場合は管理人がその痰だの唾だのをいちいち見なくて済むように(荒らしや自己確認廚の書き込み制限など)出来るシステムはないのでしょうか。町山智浩さんのブログも4年前の米大統領選の時に荒らされて今はコメント欄無くなってしまいましたし。

投稿: kem | 2008/02/12 05:58

なるほど、確かに痰壷ってのはおっしゃるとおりかもしれません。
意味不明なコメントが結構ある。
自分の読者がそういう人たちなのかと思うとそらガッカリもするでしょうな。

まあ気に入らないコメントはばっさり消すなりしていんじゃないですか? 消されたからって怒るようなタイプの人たちではないような気がしますよ。私も含めて。

投稿: まる | 2008/02/12 06:11

 小田嶋さんは私より先輩のニフのIDをお持ちですから、釈迦に説法するようで恐縮ですが、ブログとフォーラムの違いって、フォーラムの場合は個々の発言が基本的に等価で交わされているのにブログって、基本的には発信者に対するフィードバックということになりますから、ちょっと辛い部分はありますよね。フォーラムだと自分が引っ込んでいる間も他の誰かがその穴を自動的に埋めてくれるから。

 結局は、ノイズなものに耐えうるだけの図太い神経を発信者が持つしか無いとは思うんですが、一つの解決策としては、ノイズを上回る良質なコメントを集めて流せば良いんです。炎上対策として、新規エントリーを立ち上げて流すという手法がありますが、あれと同じですね。良質なコメントをより多く集めるにはどうすれば良いかと言えば話は簡単で、このブログが頻繁に更新されるようになれば閲覧者の巡回頻度も上がるわけで(~_~;)……。

投稿: えいじ | 2008/02/12 07:42

いろいろ大変だと思いますが頑張ってください!
また伸二のこととか、高原など浦和レッズへの見解や、岡田ジャパンについてどう思っているのかなど、また書いて頂けるとこちらも嬉しいです。全然関係なくてすみません。

投稿: あらい | 2008/02/12 09:59

提案
・コメント欄を閉じる。言いたいことは自分のblogに書いてトラックバックしてもらう。気の向いたリンクだけを見る。
・blogをやめてmixiなどのSNSへ移行する

投稿: Inoue | 2008/02/12 19:26

疲れたら更新しない。
がんばる必要ありません。
なんの義務もありませんから。
稀代のオタク無頼派の言説が無料で読めること自体だけで
われらは満足すべきなのであって,
コメントなんか無視でいいんです。
昨日と同じ旧エントリーが,またトップにあるんだろうな
と諦めながら開くと,今日は更新されている。その喜びを
味わえるのも,小田嶋ファンの特権かもしれません。

投稿: bbdqn | 2008/02/12 20:31

小田嶋さんは書かずにはいられない人なんだと思います。いや、勝手にそう決めています。
文章を書くことを生業としている人が、なぜスルーしなくては読めないほどのコメントをつい読み、あまつさえレスもつけてしまう、という一見不毛のエネルギーをふりしぼってもブログを書くかといえば、やっぱり書かずにはいられないからなのではないでしょうか。
かっこよく(軽く)いえば、書くことへの情熱。
ちょっと重くいえば、書かずにはいられない「業」。もしくは「性(さが)」
そういう人こそプロの書き手だ、と私は思っています。
小田嶋さんと、私のようにコメントをつけるしかない一般人との間にあるのは、たぶんそこ。
なので、更新を楽しみにして毎日やってきている「一般読者」のために、「これは情熱、業、性……」と割り切って、気が向いたときだけでいいので、続けてください。(などと要請、懇願するのも、読者の業なのかもしれませんが)

投稿: costumenational | 2008/02/12 23:25

まぁ、小田嶋さんだけではありませんが、物書きの言論を、しかも出版社を通っていないブログのような生の言論を無料で読めるようになったというのは割と幸せなことですよね。

確かに読めるだけでも幸せなことですし、読めること自体がボーナスみたいなものですんで、なくなってもそこまでダメージを受けるようなものではないですし、気楽にマイペースで書きたいときに書けばいいんだと思います。
ブログの中には、ごく普通の人でも興味深い文章を書く人も多くなっているような気がしますし、読む側としては色々な場所から色々な個人の意見を聞けるようになったのは自分としてはうれしいです。

スリル・・・面白そうですね。
俺も某分野で書いてみたいこといっぱいありますし、ブログ作ってランキングにでも登録してみようかな・・
どんな反応が来るんだろうな、望んでいるような反応などほとんどないんだろうな・・・
自分の拙い文章力でもやれるんだろうか・・・いやでも、書くことによって自分の能力を向上させることが出来るのではないだろうか・・・

そんな葛藤が出始めている今日この頃です。

投稿: neco | 2008/02/12 23:29

なんだか先生、今日のコメント欄は、いつもぶっ飛んだ米をなさるコテの方も含めて内容がまともですねw

投稿: ハスミ | 2008/02/13 22:35

タイトル、スルー「力(りょく)」だったのですね。

今の今まで「するーか」って何だろう?サッカー用語か何かか?と思ってました。

投稿: キリハラ | 2008/02/14 00:36

おそらくブログのコメント欄のリテラシーというのはまだ確定していなくて、大論争歓迎の人、自論への賛意でエントリーを彩りたい人、軽い交流にとどめたい人、様々だと思います。
では各ブログのコメント欄の在り様は、そのブログ主の意向に沿うべし、と無難にまとめるのが正解かと言えばそうも思えなくて、日記+コメント+トラバと言うブログの標準的仕様は、ある程度の社会的評価(反論・異論?)に開かれた対応をする責任も要求されるのではないでしょうか。

投稿: 44 | 2008/02/14 09:29

本来、小田嶋さんのブログ移行の目的てのは
・HTMLタグ付けとかしなくていいからお手軽
・システムによるモチベーションが効く可能性
(高価な日記帳買えば日記つけるかも、とかそういうたぐい)
だったはずです。

それまでわれわれ小田嶋ファンはは「おだじまん」の「偉愚庵亭日乗」を読んで満足し、次の更新はいつかしらと一日千秋の思いで待っていたはずです。コメント欄などなく、記事のほとんどが3行書き捨て(失礼!)であっても。だって副題が"A day in the life"なんだし。

原点に戻られるのがよろしいのでは。

投稿: かくた | 2008/02/15 01:33

キリハラさま

> 今の今まで「するーか」って何だろう?サッカー用語か何かか?と思ってました。
こんなのありますけど
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/col/20061205/120048/

投稿: かくた | 2008/02/15 01:45

深淵を覗き込んだためマイルドひじきになりました。毒舌感情ゼロ。世界とはおとろしーぶぶんもありましゅね。唯師の継承はもしやできなかつたらどうしませう。

…まだ…ダイジャブかな!

投稿: NS9遣い | 2008/02/15 01:49

初めてコメントします。
小田嶋様のブログ楽しく読ませてもらってます。
私は小田嶋様に類似するようなブロガーさんを見たことがないです。
お気に入りのエントリーは、リアルを自称するHIPHOP兄ちゃんとの問答です(笑

現在もコメント欄をご覧になっているのですね。
現在のBlog事情として、mixiを始めとして業者の蔓延、情報の流出などの危機意識もあってか、
SNSでの交流をやめて、Blogのコメント欄に知人友人とのやりとりの場を移した人が多いと感じられます。
でも、毎回同じ人ばかりがコメントしているブログは、
エントリーに興味があってもちょっと引いてしまうかも…。

この偉愚庵亭憮録は、コメント欄での小田嶋様の返しコメントを
楽しみにしていたのですが、
最近はそれもあまりなく、見ている方は面白くてもコメントする方は
やっぱりしんどいのは当たり前ですね。

なにか新しい意義が芽生えれば、良いのですが…。
これからも陰ながら、楽しみにさせていただきます。

投稿: 読者 | 2008/02/15 15:10

何かコメ欄が気持ち悪いんですが…。

先生はこの手のヌルい感じをご希望されてるのですか?

投稿: h | 2008/02/15 15:41

>何かコメ欄が気持ち悪いんですが…。
 先生はこの手のヌルい感じをご希望されてるのですか?

小田嶋センセー、ブログの米欄読む
       ↓
痰壷化してて更新モチベーション下がる
       ↓
ファン涙目でセンセー励ます←いまここ

ただ単に普段はROMって書き込まないファンの米率が高いだけだとおもうのですが、米がヌルいのはエントリーの性質上仕方ないと思われ...

投稿: kem | 2008/02/15 17:35

以前「ミクシィは皇室報道に出てくるような人ばっかりで気持ち悪い」とどこかに書かれてたような……。
「水清ければ魚住まず、されど毒水やぬるま湯でも生きられず」といったところでしょうか。

投稿: Noisy | 2008/02/15 17:53

つーか、ここのコメ欄
記事へのコメントじゃなくて自分の話がしたいコテばっかだから
普通の閲覧者がコメする空気じゃなくなってんじゃん

投稿: @Ki | 2008/02/15 18:33

戦争だいすきっこは黙ってなさい。

投稿: NS9遣い | 2008/02/15 23:39

かくたさま、

>こんなのありますけど

驚きました。

投稿: キリハラ | 2008/02/15 23:58

ICU!ICU!

前者:そいつ(そのかた(やっぱそいつ
後者:アレ(アソコ

投稿: NS9遣い | 2008/02/16 17:41

やっぱり、人気があるブログは大変なんですね・・・。

ネットの魅力のひとつは、私のような「素人」でも「プロ」と同じステージに立てるということなのかもしれませんね。

私は、ただ「言いたい」「書きたい」という欲求を満たしてくれるブログという「大人のおもちゃ」を手に入れることができたことで「ハッピー」です。

今の悩みは、ほとんど「独り言」になっていることなんですが・・・w

確かに、「不愉快」なコメントで埋め尽くされるのも「精神衛生上」よくないかもしれませんが、どこかで「線引き」をして思い切って「削除」するようにしたらいかがでしょうか?
もちろん、かれらのコメントの中にも「真理」が埋もれていることもありますから…。

その辺の「見極め」とある程度の「いい加減さ(いわゆる「鈍感力」?)」で、「テキトー」なところで手を打っちゃっていいんじゃないのでしょうか?

こんなことでテンション下げてちゃ、彼らのおもう「ツボ」じゃないですか?!

投稿: ヴぁるす | 2008/02/17 14:44

コメント欄閉じればぜんぶ解決です。

投稿: うらら | 2010/11/05 20:36

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