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2007/08/17

減量脳

 減量開始以来約3ヶ月半で、10kgの体重減に成功。まずはめでたい。
 7月に買った自転車の累計走行距離もお盆前に400kmを超えた。うん、そうだよ。オレはムキになっている。いい年をぶっころがして、必死になっているわけだ。笑うんなら笑えよ。

 ともあれ、当初の目標値は達成した。
 で、乗りかかったガレー船というのか、毒を食らわば沙羅双樹というのか、このまま減量を続行して、とりあえずあと5kgほど体重を減らしてみようかと考えている。で、60kgを切ったら、またそこで考えよう。
 ん? 減量の自己目的化は危険だと?
 余計なお世話だよ。
 拒食症になろうが、倒れようがオレの勝手だ。違うか? 別にオレが無理な減量をしたからってあんたのアタマがハゲるわけじゃなかろう?
 っていうか、当方は20歳になるかならないかの頃、栄養失調で入院(←忙しかったり二日酔いだったりで3日ほどモノを食べずにいたら、食べ物をうけつけなくなった。食べると吐く、の繰り返し。で、医者に行くと、「脱水症状ですね」ということでそのまま緊急入院。丸三日点滴を受けて退院)した経験を持っている男なわけで、そのへんの機微には、多少通じている。だから、見栄っ張りのド素人が自己流の減量にハマることの危険性について、まったく無知なわけでもないのだ。
 でも、考えてみてくれ。
 危険じゃない減量法があるのか?
 ……いや、あるんだろうさ。安全で賢明で自暴自棄でない、オシャレでロハスで世田谷っぽい、マガジンハウスご推薦のエレガントかつセレブハートなダイエットプログラムみたいなものが。どうせ。
 でも、安全な減量法は、微温的だという点でパンクな中年には魅力を欠いているわけで、だからオレらとしては、そんなどんよりした取り組みに残り少ない人生の時間を割くわけには参らぬのだよ。
 わかるかね、先生。50歳を過ぎた人間が実践する健康法には、ある激越さが不可欠なのであって、不健康な要素を持たない健康法は、退屈であるという意味で、実践的にはまったく無効なのだ。
 別の言い方をするなら、リスクもスリルも無い、セーフティーでクレバーな健康法に大真面目で取り組むことができるような退屈な心根の持ち主は、そもそも不健康の側にはみ出すいわれもないわけで、とすれば、そういうチキンハートは、原理的に健康法とは無縁な衆生だ、と、そういうことだ。
 

 減量中の人間が、体重計のもたらす達成感に中毒するという側面は確かにある。
 じっさい、この三ヶ月の間、私の感情の起伏は、体重計が示す値への一喜一憂にほぼ終始していたわけで、それはやはりトータルで見れば、病的な生き方だったと言わざるを得ない。

 でも、世間は、10kg程度の体重減ではあんまりびっくりしてくれない……どころか、気づいてさえくれない。
 いや、本当のことだ。
 10キロも減らしたのに、誰も気づかないのだ。
 当方としては、そこのところがどうしても納得できない。だから、このままでは、引っ込みがつかないのだよ。わかるだろ?
 だって、あんまり不当じゃないか。オレが肥った時は、あんなに口やかましく口角泡を飛ばしてネタにしまくったくせに、痩せたら痩せたで、今度は見て見ぬふりなんだから。
「あれ? ちょっと痩せましたか?」
 とか、それぐらいな反応はしてもよさそうなものじゃないか。なのに、世間の連中は全員で結託してオダジマの減量をスルーしている。驚くべきことだ。
 たぶん、そういう秘密決議みたいなものがどこかで採択されて、それで、あいつらはシカトを決め込んでいると思うのだが、いずれにしても、10kg程度の体重減については、どうやら、世間は「気のせい」で片付けることにしている。不当な上にも不当なことに、だ。

 減量生活が辛かったかというと、実のところ、たいしたことはなかった。実感は、腹が減るということ以上でも以下でもない。
 ただ、朝食と昼飯を抜くという生活については、各方面から、否定的な反応が山ほどあって、これらのご意見に対応するのが思いのほか面倒だった。
 具体的に申し上げると
「大丈夫なの?」
「無理がいちばんいけないらしいぞ」
「倒れたら元も子もないぞ」
「食べたいものも食べないで、生きてる甲斐があるんですか?」
「ダイエットはダイエットだけどさ。昼メシぐらい付き合うのが社会人だろ?」
 と、こういった調子のご発言に対して、その場で喧嘩腰の返事をせずにおくために、多大な自制心を要した、と、そういうことだ。

 おそらく、ある種の人々は、目標を持って生きている人間を、目障りに感じるのだと思う。だから、禁酒でも禁煙でも、減量でも、何かしら、困難な課題に取り組んでいる人間を見つけると、必ずや邪魔をしにかかるわけだ。
 禁酒の時もそうだった。
「酒をやめたからって人生が変わるわけじゃないぞ」
 と、酒飲みの皆さんは、異口同音にそう言って当方の断酒に待ったをかけようとしたものだった。
 もうひとつ気づいたのは、減量企図を揶揄してくる人間(←「ふふっ。おなかがすかないの?」)が、肥満を笑った人間(「また一段と肥ったんじゃない? んふふ」)と同一人物であるということだ。
 結局、野放図に食べても肥らない体質に生まれついた人間は、肥満者に対して軽侮の念を抱いているのみならず、減量実践者に対しても優越感を抱いているわけだな。無理な努力をして、やせようとしているかわいそうな人、とかいった調子の上からの目線で。
 あいつらを一夜にしてデブに変換する魔法があると良いのだが。

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コメント

以前とは別人の如き風貌を「紙の爆弾」9月号にて知り大変衝撃を受けました。すっかり金満作家様風ではありませんか。
先生は「紙の爆弾」取材の時点で既に10kg減量されていたのでしょうか?

投稿: shim47 | 2007/08/17 19:05

>shim47 さま
 貴兄のおっしゃる「以前」というのが、いつの時点であるのかによって私の金満作家変貌度にも多少のバラつきがあるということなのでしょうが、とりあえずご質問にお答えしておきます。「紙の爆弾」の誌面に掲載されているのは、7月上旬に撮影した写真でピーク時よりも5kgほど減量した時点の立ち姿です。
 現在は、あの写真に比べて、さらに5kg減っており、かつ30パーセントほど日焼けしています。よって、ホームレス指数の上昇にともなって、金満度は20パーセント減ですね。

投稿: 小田嶋 | 2007/08/17 20:09

はじめまして。いつも楽しみに拝見しています

ダイエットを揶揄する人と肥満を笑った人が同一人物というのは
よく解かる気がします。
確かに、そうかもしれませんね。 納得です。

投稿: 哲也 | 2007/08/17 20:46

小田嶋様初めまして。
世間は、10kg程度の体重減ではあんまりびっくりしてくれない..
ではない、と思います。
小生も4年前50半ばで14キロ減らしました。同じように4ヶ月ほどです。その間は誰からも何も言われず、その後半年ほどして、かなりの友人及び人々から、「何かの病気ぢゃないのか?」、と面と向かって、痩せたのねと言えなかったと言われました。まぁそのうち嫉妬がかって言われますよ。
「何だ、そうか」とか。

投稿: muraの住人 | 2007/08/17 20:50

最後の一文にコーヒーを吹きました。

投稿: n_z | 2007/08/17 20:55

はじめまして。
もうそろそろ、5kg減量後の準備を始めてみてはいかがでしょうか。 次のクラスは、GIANT OCR カテゴリーと推察していますが如何でしょう?

投稿: GIANT | 2007/08/17 22:20

10キロ減っても周囲は気づかない…って事はないと思いますよ。
ものすごい巨漢ならともかく、10キロ減ればずいぶん印象は変わると思います(もちろん、興味がなくて気づいていない人もいますけどね)。

たぶん気づいててもそれを言おうとしないだけなんじゃないですかね。
太ることが『失敗』『堕落』という意味になるように
体を絞るとそれは『成功』『向上』を意味するわけで、
太った人を堂々と見下したり糾弾する人間にとっては面白くないわけですよ。
あの手の人たちは人を軽蔑したくてしてる人たちだから。

たとえは悪いけど、貧しい人を見て「いやあね貧乏人って」って軽蔑してるくせにその人が大成功をしたらしたでそれは面白くない。
無視したり中傷したりする。
なんかそれに近いんじゃないかって気がしました。

投稿: タロスのパン | 2007/08/18 00:28

体脂肪率はどれほど落ちたんですかね。食べないダイエットだと筋肉も同時に落ちていくはずなので、減った10KGのうち、もしかしたらかなり筋肉も落ちてしまっているかもしれないです。体脂肪率がわかれば、筋肉と脂肪のどちらがより多く落ちたのかもわかるので、もしよかったら教えてください。

筋肉をつけつつやせると太りづらい体質になります。体の組織で一番脂肪を消費するのは筋肉なので筋肉をつけるだけで、やせる人もいますし、これからは筋トレを行えば、リバンドも防げると思います。後5KGがんばってください。

投稿: UCC | 2007/08/18 00:37

「七人のメタボ侍」が黒澤巨匠につきあいよすぎたためか六人になってしまったわけですが、企画を続行するって市長がのたまっとるんすよ。で、「こんだけ痩せました~」というお披露目も予定通り行う運びという。

イヤそりゃねえだろと。

いくら無理へんにナントカでゴリ推しせなならん逼迫状況があるからつーて、死人が出た企画を見直しもせづ公的機関でシャンシャン粛々は、いくら頭くるってる加減がデフォの新世紀日本でも、許されないと考えまする。

「北磁極」でぐぐると、眼ン玉しゅぱーんと2メートルくらい前方に射出するかもしりません。ぱにくんないでくらさいネ。大人は大人しく落ち着いてこー。遂にビューティフルドリーマーハリアー搭乗場面段階ある。

投稿: 駄、だあれぇ? | 2007/08/18 03:55

5年ほど前に半年かけて15キロ減らしましたが、反応がはっきり二分しました。ぜんぜん気付いてくれない人と、ものすごく狼狽する人です(ガンだと思われたらしい)。
というわけで、いろんな人に会われてみてはいかがでしょうか(ただし普段しょっちゅう会っている人だと、減量する過程を見られているのであまり気付いてもらえませんが)
ちなみに私も徹底した減食で痩せました。ひたすらがまんするだけ、という方法なので、腹が減っているという感覚に慣れさえすれば、あとは結構ラクでした。体重計に乗っては数値がどんどん減ってゆくさまに酔う、というのはまさしくその通り。減食は時間に余裕がある場合にのみ出来る、というのも同感です(今は忙しくなってしまって、体重も結局元に戻ってしまいました)。

投稿: 田町 | 2007/08/18 14:48

以前、ボクシングをやっていたとき減量はそれほど苦にならなかったのですが、当時より20キロ近く増えた現在ダイエットに四苦八苦しています。
その昔ファイティング原田は『水を飲んでも太る体質だった』と言っていたそうですが1リットル飲めば1キロ増えることを理解してなかったんではないかと思いました。『食わなきゃ太らねえよ。奴らは絶対食ってやがる』
減量中はよくそう思いましたよ。ビデオをみても極限まで絞ったようには見えなかったですし。
小田嶋さん、体調にお気をつけ長く私たちを楽しませてください。
スポーツコラム特にサッカー本は最高でした。
あと、二ノ宮清純を許してください。『スポーツは全部好きだがボクシングは別格だ』みたいなことをいってましたし、今度ハゲにするらしいので。

投稿: finito | 2007/08/18 17:37

以前カロリー減とジョギングによって3ヶ月で16キロ痩せました。
その最中の周りの反応は、小田嶋センセの周りと同じ。こんなもんに対する人間の反応なんて、数パターンしかないっちゅうことでしょうね。
痩せた後はこちらから言い出さない限り、みんな体型の話題には触れませんでした。まあこれも、頭が淋しくなってきた友人の前で頭髪の話を持ち出さないのと同様、そこそこの分別を持った大人の当然の反応ではないでしょうか。
そのかわり一度「あーそうなんだ」となってしまえば、話題解禁ムードの中で「私は、こうやって痩せました」的な自慢話をフカしまくれます。これはこれでとてつもなく気持ちいいので、是非是非、積極的に口外しまくってみてください。

最後の1文は涙なくしては読めない名言だと思います。w

投稿: hietaro | 2007/08/18 22:23

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