ひとりインフルエンザ
風邪。
発病は日曜日。
月曜と火曜は喉の痛みと発熱。ひたすら寝る。
水曜日になって発熱はおさまるものの、喉の荒れと咳がなかなか消えない。
というわけで、約束を一件忘れる。
恩のある人との10年ぶりの会合だったのだが、日付を間違えて見事にすっぽかす。
気づいたのは今朝。あわててメールを打つ。平身低頭。
その間にも仕事。
原稿を産む機械(笑)。
なーんて、そんなにシャレたものではありませんがね。
サカ雲のアマゾン順位が低下傾向に入ってきたので、テコ入れに見本原稿をアップしてみます。
とりあえず、ジダンの原稿などを。
ジダンの頭頂部が禿げているのは偶然ではない。現代サッカーの頂点に広がる不毛を物語る暗喩だ。つまり、このジネディーヌ・ジダンというシャイな青年が王として君臨しているところにモダンフットボールの不幸があるということを、私は言おうとしている。ついでに申せば、ジダンに地団駄を踏ませた日清の罪は深い。ヤカンをヘディングさせた演出ともども。
その昔、サッカー選手は治外法権だった。ボールをエレガントに扱うことのできる男は、芝の外でどんなに放埓であってもかまわなかった。
リバプールではすべてのパブにジョージ・ベスト名のボトルがキープしてあり、ボトルのおまけには金髪娘がついていた。もちろん二日酔いで練習場に現れるこの長髪の伊達男を非難する人間は一人もいなかった。
「ヘイ、ジョージ。ゆんべの女はどうだった?」
と、ファンが声をかけるとジョージは答えたものだ。
「チェルシーのディフェンスみたいにユルユルだったぜ」
のみならず、二十年前のフットボール選手は、ゲームがおこなわれている芝の上にあってなお独善を貫く権利を有していた。
たとえば、キング・ペレが守備をしただろうか? マラドーナはオーバーラップしてくるウィンガーのためにスペースを作る無駄走りをしただろうか?
しない。
あるいは、王者カントナはオーナーの誕生日にバラの花を贈っただろうか?
贈らない。覚えてさえいない。
つまり、彼らは自分の本能にまかせてフットボールをしていたのであり、その本能の輝きこそが彼らの天才であったのだ。しかも彼らの独善はそのままサッカーの美であり、そのエゴはフットボールの豊饒であった。
ジダンはどうだろう?
彼は守備をする。せっせとスペースを埋め、時にはファーサイドに上げられたクロスに合わせてニアでつぶれ役になる。
「自陣ペナルティーエリアでクリアをしてるようなヤツはエースとは言えない」
と、1970年代のサッカーファンならそう言うだろう。しかし、ジダンはそれをする。敵フリーキックの時には金玉位置に両手を添えて壁にまでなる。
そう、21世紀のサッカーではベストプレイヤーでさえ王様ではいられない。いや、騎士の地位さえあやしい。現代のサッカー選手は、年収数十億円の走る宝石も含めて、全員が一人残らず、しがない労働者なのだ。
スタジアムの外に出たジズーはどうだろう?
彼は奔放だろうか?
放埓だろうか?
せめて豪放磊落ぐらいではあってくれるだろうか?
全然違う。彼はシャイで考え深く、寡黙で微温的で、慎重でオヤジくさい。さらに言えば大の愛妻家で、いくぶん恐妻家ですらある。もちろん女たらしなんかでは全然ないし、大酒のみでもなければ寝小便たれでもない。
つまり、小物なのだな、男としては。どっちかって言えばオレの方が大物だもんな。
いや、私ごとは措くとして、ともあれ、ジョージ・ベストはアル中のオヤジに成り果てた。われらがディエゴの余生もたぶんそんなに長くない。そしてこれらのことをジダンは知っている。そうだよ、ジズー。王には老後が無い。あるのは断頭台だけだ。うん。だけど、老後なんかどうでもいいじゃないか。な。だから税理士なんて言うなよ。ヒデもさ。
2058年に書かれるジダンの自叙伝「ジダンが自伝だ」(仮題)の冒頭の一行は、たぶん、こんなふうにはじめられる。
「私のピークは空虚だった」
私はこんな本を読みたいとは思わない。
だとしたら、こんな本を書かないために、ジダンは、ぜひ自分を解放せねばならない。
ジズーよ。キミは王だ。黄金のエゴを持った本物の天才だ。王様らしく好き放題にやれよ。な。
手始めに……
そうだな、まず、女房を殴れ。
(以上、「サッカーの上の雲」 P257~259 初出:「ワールドカップ切り捨て御免」・宝島社2002年5月2日、より)
ところで、この原稿のオチの、「まず、女房を殴れ」は、これは、マズいね。シャレになっていない。ヘタするとライター辞任につながりかねない。増刷分では訂正しよう。
以下、訂正案
- そうだな、たとえば、マテラッティあたりに頭突きを食らわすってのはどうだ?
- そうだな、まず手始めに、買い物の時、嫁さんの荷物を持つ任務を拒否してみてくれ。
うーん。どちらもいまひとつ弱い。やっぱり差別と人権侵害を禁じ手にされると、コラム屋稼業はあがったり、と、そういうことなんだろうか。
寝よう。
じゃなかった。仕事仕事。ゴホッゴホッ(←咳)。
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コメント
男女関係で何にも勝る優先順位は何か?
俺は、「女のロリータ性を維持すること」と考えております。
「俺がおーものであること」はそれよりは、下ですな。
寡聞にしてぃゃ多聞にして世で言うところの「おーもの」行為をすればするほど女は不貞腐れるか或いは束縛妻ムードを漂わせて燕を待つ身となると。他からなんといわれよーとも女が俺好みでいる限りなんでもないですな。
近頃の30代女がおばさん化しないのには訳があると思いますよ。
投稿: MeXi | 2007/02/02 06:57
訂正案としては
中華鍋を買え
とかがどうですかね。美味しい食事を食べさせると兵隊はよく戦う、と矢作俊彦&大友克洋コンビのまんぐゎにも出てきております。
投稿: MeXi | 2007/02/02 07:14
おもしろい! すっごく面白いです!
ついつい買い忘れておりましたが、今からアマゾンへ行って参ります!
私としては、2002年初出の文章のオチが「マテラッツィあたりに頭突き」だと、十分に面白くて、喜びます。
投稿: ミヤタ | 2007/02/02 17:10
>ゴホッゴホッ(←咳)
ゴホン(←書籍)といえば「サッカーの上の雲」
Jリーグの全スタジアムの売店で常備してもらいましょう。
版元の営業さんは忙しくなりますが(笑)。
インフルエンザ、お大事に。
投稿: よし | 2007/02/03 01:11
『サッカーの上の雲』、本日アマゾンから到着しました。
「フィジカル・インテンシティ」から笑い転げております。
投稿: takaramura | 2007/02/03 21:43
影響という名の疾病。
投稿: MeXi | 2007/02/04 12:15
ひゅー!
8万円とは恐れ入った
投稿: MeXi | 2007/02/04 16:58
小田嶋さんの本、こんなに面白いのに
なんで売れないんだろう。
内田のタッツァンの本はバカ売れだそうじゃないの
投稿: a hole in the world | 2007/02/05 21:58