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2007/01/21

豚に新宿

 新宿に出動。
 西口方面からアルタ前を経て、渋滞の新宿通を伊勢丹方向に進む。
 フロントガラス越しに見る新宿の町はなんだかひどく貧乏くさく感じられる。
 なぜだろう。どうして新宿はこんなにも色褪せて見えるのだろうか。
 高い位置のネオン看板がサラ金の広告に占領されているからか?
 建物が狭小で古いからだろうか。
 あるいは、そうした事情とは別に、歩いている人々のたたずまいがこの町の印象を暗くしているのだろうか。
 理由はともかく、駅前の景色から伝わってくるのは、アジアのダメな観光都市にありがちな脂ぎった混沌ばかりだ。
 ずっと昔、私が若い者だった頃には、新宿はもっと輝いて見えたものなのだが、あれは気のせいだったのだろうか。
 たとえばの話、地方都市から出てきた若いヤツが、はじめてアルタ前から紀伊国屋方向を一望してみたとして、彼は目の前の景色から、ときめきを感じるだろうか。
 感じないと思う。
「ちぇっ、これが新宿かよ」
「博多の方がずっと開けてるぞ」
「っていうか、仙台の方が全然きらびやかだと思うんだけど、これが東京一の都会なのか」
 と、そういう感想を抱くのが普通なんではなかろうか。それほどに、新宿の風景は魅力を欠いて見える。ただただ荒んでいて、やかましくて、猥雑で、要するに貧乏くさいのだ。東京に憧れてやってくる若者がいるのだとしても、あんまりこの町には来ないと思う。
 ……と、ここまで書いていて思ったのだが、新宿がくすんで見えるのは、新宿のせいというよりも私の側に原因のある話で、つまり、私がトシをとったということなのかもしれない。
 新宿が最先端の町でなくなったのは、いまに始まった話ではない。私が頻繁に出入りしていた20年前の段階で、すでに新宿は場末の盛り場だったし、それ以前の20年だって、決して先端的な都会ではなかった。というよりも、新宿は、闇市から立ち上がって以来、一貫して猥雑でやかましくて荒んだ空気の漂う、二級の都会だったのかもしれない。
 むしろ不思議なのは、そのいかがわしい新宿に若い時代の私が愛着を抱いていたことの方だ。そう。どうしてまた私はこんな冴えない町をひいきにしていたんだ?

 答は、酒だ。
 こたえにくい質問の解答はいつもグラスの底にある。
 私が新宿に関わっていたのは、主として酒にからんだなりゆきからだった。つまり、私は一人の酒徒としてこの町をさまよっていたわけで、そうである以上、私の判断は間違っていたのである。
 ……いや、間違っていたというのは言い過ぎだ。わかっている。
 酒をやめた人間は、極端に走り勝ちになる。
 断酒者は、酒を飲んでいた時代に自分がやっていたことを全面否定したくなる。
 というよりも、そういうふうに酒にからんだ経験のすべてを十把ひとっからげに封印してかからないとなかなか禁酒というのはうまくいかないものなのだ。だから、断酒者は、意図的に手のひらを返す。人生観をひっくり返し、人付き合いを裏返し、生活信条をひるがえして、そこまでやってようやく盃を返すことができる、と、そういうなりゆきなのだよ。勘弁してやってくれ。
 ともあれ、そんなわけで、断酒者は、酒飲みが愛着を抱くタイプのあらゆる事柄を嫌うようになるものなのであって、たとえば、新宿の猥雑さなどは、その典型なのだ。
 大酒のみであった時代の私にとって、新宿は、通り過ぎるだけでもなんだか心が潤う感じのする町だった。
 が、酒をやめてみると、一転、この町に関しては、やかましさや不潔さやうさんくささばかりが目につくようになった、と、そういう次第なのである。

※新刊の見本が送られてきました。
 アマゾンのリンクができましたら、あらためてサイドバーで紹介しますが、とりあえず、以下に本の写真を掲載しておきます。「サッカーの上の雲」駒草出版 1400円+税です。よろしくよろしく。

Kumo

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コメント

テクニカルライターはどうなったんでしょうか。

投稿: MeXi | 2007/01/21 10:55

新刊表紙の write by は、ぜひ written by に直してください。
間に合えばですが。

投稿: haimo | 2007/01/21 11:21

>haimoさま

>written by

あれれ。気づきませんでした。
25日発売という運びになっていますので、間に合うものかどうか。一応打診してみます。
間に合わない場合、訂正は増刷待ちということになりますね。
祈増刷、と。

投稿: 小田嶋 | 2007/01/21 11:31

「豚に新宿」。味わい深い内容です。最近、私も大幅な節酒を断行中なので余計に。別のコラムで書かれていたように酒を止めること自体より、飲まない時間をどう過ごすのかが難しい、を実感しております。
 
>written by
瑣末ではありますが。洋書では形容詞抜きで著者名のみの表記が多いかと。あるとすれば「by」だけでは?デザインのバランスもあるとは思いますが。

投稿: ロージー | 2007/01/21 20:59

>write by → written by

これはつまり、
「e(エラー)を正して売り上げten(10)倍と
いきたいものだなあ」
という、製本業者の方による願望の表現なのではw

投稿: デラシネ | 2007/01/22 13:55

まぁ…

「ザ・インターネット」「ザ・エージェント」「オン・ザ・エッヂ」

に、さしたる突っ込みの無い日本国民を眺めているとですね。

もはなんちょでもえぐなってくるじゃ。どうせ確信犯(誤用法)なんだろうし。

それに、俺も今更「ジ・ウルトラマン」と呼びなおしたくはないほど内山まもる先生のあれは素晴らしい作品ですしね。

とはいえ、「シュミレーション」だけには生涯難癖をつけ続けようと。これは、ライフワークです。ほっとくと若い世代は「確立」「以外と」あたりで火遊びしやがるのでまったくもって怒髪点。

投稿: MeXi | 2007/01/23 16:33

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