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2006/10/17

ボスの日

 午後、京橋に出動。
 C社にて打ち合わせ(←読売Weeklyの連載を単行本化するお話。乞うご期待)のため。
 ところが、先方に電話してみると、約束は明日。おい。
 で、久しぶりに都心に出てきたことだし、銀ブラ(←死語)としゃれこむ(←さらに死語)。
 ヴィトン、シャネル、カルティエ……銀座の中心部はブランド進駐軍によって再接収されつつある。
 オキュパイド・ジャパン。
 オレたちのエキゾチックな租界。
 そうだったのか、銀座の恋の物語というのは、貨幣鋳造地に展開される感情の両替行為だったのだな。

 伊東屋を覗く。
 手帳コーナーに掲示してあったPOPで、今日が「ボスの日」だということを知る。
 ボスの日

ボスの日:1958年に、アメリカのパトリシア・ベイ・ハロキスが、会社を経営していた父のために、経営者と部下の関係を円滑にする日として提唱し、アメリカ商業会議所に登録されたことが始まり。
アメリカではこの日に、ボスを昼食に招待したりプレゼントを贈ったりして日頃の労をねぎらう。
日本でも1988年からデパート業界が実施している。 (以上、Wikipediaより)

 イヤな記念日だ。
 ボスはボスのままで良い。
 どんな日であれ、いつでもボスでいるのがボスの仕事だ。
 が、部下にとって、「ボスの日」は「踏み絵の日」になる。
 あるいは、「奴隷の日」だろうか。
 ボスへの忠誠を品定めされる試練の一日。
 ううう。

 いや、ボスも、無事では済まないかもしれない。
 というのも、このテのプレゼントがらみの慣習がわが国に本格普及すると、必ずや「お返し」のためのイベントが別途企画されることになるからだ。しかも、どうせ「倍返しが基本」ぐらいな腐れ上司の虚栄心をくすぐる感じのマニュアル付きで、だ。
 義理の発生と消費、そして相身互いの再生産。贈る側も貰う側もたいしてうれしくない、貸し借りの連鎖としての贈答スパイラル。このあたりの機微はバレンタインデーに対してホワイトデーが発明されたことで既に証明済みだ。
 プレゼントは、元来、贈りっぱなし、貰いっぱなしを旨としている。ところが、それが日本語に翻訳されて「贈答」という言葉になると、「贈」と「答」でワンセットの、どうにもがんじがらめな概念になる。
 そう。この国の人付き合いでは、貰いっぱなしは絶対に許されない。贈答無限連鎖への道。
 いやだなあ。

 伊東屋を出て有楽町近辺を歩いていると、C社O氏より電話。
「せっかくお運びいただいたので、食事でも」
 とのありがたい申し出。
 銀座三丁目でインドカレーをごちそうになりつつ、明日の打ち合わせのための予備折衝。
 ええ。「まえがき」がまだ書けてないので。

 帰路、ついでのついでに東銀座シネマパトスまで足を伸ばして、O氏おすすめの映画を見物していくことにする。
 「太陽」という変わり種の映画。
 ストーリーや設定の細かい点はともかく(っていうか、私にはよくわからなかった)、イッセー尾形の演技がとにかくみごとだった。
 エンペラーの内面に巣喰う空虚みたいなものを、この上なく効果的に演じていた。
 天皇はボスではなかった。
 じゃあ何だったのか?
 神の子?
 違うな。
 システム。
 機関だよ。
 いたましい話だ。
 人である前に、機関として機能せねばならなかった男に宿ったチック症状。
 
 現在でも同じだ。
 神格化が非人格化に変わってはいるが、基本的な路線は変わっていない。
 生身の人間を「象徴」というモビルスーツに押し込めるアクロバット演出。
 フォルマリン溶液の中のカニみたいな一族の悲劇。
 いや、比喩です。
 他意はありません。
 寝よう。
 
 

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コメント

> というのも、このテのプレゼントがらみの慣習がわが国に本格普及すると、必ずや「お返し」のためのイベントが別途企画されることになるからだ。しかも、どうせ「倍返しが基本」ぐらいな腐れ上司の虚栄心をくすぐる感じのマニュアル付きで、だ。

現代版「朝貢貿易」なのかも。

投稿: 深海魚 | 2006/10/17 04:32

ソクーロフ監督は男性の描写がいつも妙にエロチックなので好きです。
イッセー尾形氏はどうだったのかちょっと気になります。

投稿: タロスのパン | 2006/10/17 23:43

おっ、新刊でるんですね。たのしみです。

で、ボスの日。
噴飯物です。

自足した老人がたに人気のある、サムエル・ウルマンの「青春」という詩を連想します。

投稿: よし | 2006/10/17 23:59

映画で「太陽」と聞けば「太陽がいっぱい」になってしまう古い映画フアン、というより能無しで挫折した映画屋でありました。
最近の映画は、劇画というのかテクニカルというのか、変化が激しくて分かりません。しかし懸命に追いかけているつもりです。プログを追いかけるのもその為・・・。
そこで映画「太陽」の「ボス」から「象徴」へ、の連鎖。
「単なる比喩です。他意はない」といいながら、すこぶる痛快で面白い。だから、このプログを追いかけます。
昔、現人神が乗ってる馬が白いからといって、「白い馬」が通っても頭を下げさせられた情景を思い出しました。みんな大真面目でした。

投稿: 小高英二 | 2006/10/21 16:09

太陽と言えば、俺はジュリーですなぁ。

観てませんが。DVD出てるんでしょうか。

投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/10/21 18:54

新刊今から楽しみです。今までのコラム集も全巻購入熟読して、このブログとともに人生の指針(?)としています(^_^;)。ところで「噂の真相」に連載された「無資本主義商品論」のなかで以下のものが単行本未収録だと思いますので、いずれ何かの本にぜひ収録してくださいますようお願いします。1988年11月号、1991年4月号、1994年4月号、1994年8月号の4本です。このうち94年4月号は手もとにあり、「リレハンメル五輪赤字 $130,000,000」という佳作が収録されています。何卒。

投稿: haimo | 2006/10/30 18:15

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