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2006/05/13

転落

 午前二時過ぎ、突然の電話。
 同時刻に帰宅した妻から。
「駐輪場に人が倒れている」
 と。
 かなり動転している様子。

 すぐに1階に降りて、玄関ホールからガラスのドア越しに駐輪場を見ると、若い人(5メートルほど離れているのでそれ以上はわからない)が倒れている。ひと目見て、非常に良くない感じ。これ以上近づきたくない。
 警察には既に妻が連絡済みだったようで5分ほどのうちに数人の警官が駆けつけてくる。ほどなく救急車も到着。その後も続々と警官が登場。なんだかんだで20人近い人数になる。サイレンは鳴らさず。深夜は、自粛するもののようだ。
 倒れていた人は、救急隊員が甦生を試みるも即死状態であるらしい。しばらく後、搬送されて行く。
 以後、警官の質問に答えるなどして、一時間ほど取り調べにつきあう。
 まず、住所、氏名、年齢を聞かれる。
 で、発見時の状況などについて話す。
 ほかにも、ざっと以下の周辺事情を話す。

  • 火曜日の夜に、駐輪場に向けて消化器が投げ落とされた事件があった。ちなみに、各階の共用部分に設置されている消火器のうち、10階のものだけが無くなっていたので、おそらく投棄した現場も10階と推定される。
  • 1年以上前にも、同じ10階の消火器が投げ落とされたことがあった。
    火曜日の投げ落としについては、水曜日に管理会社の人間が調査に来て、警察にも一応報告してあったはず。

 一通り状況を報告した後、警官とともに、各階の共用部分を見て回る。

  • 落下位置から見て、飛び降りの現場は、ビルの外壁から露出しているコンクリート製の梁(外廊下から柵を越えてアクセスできる)の部分。
  • 9階の梁にタバコの吸い殻が3本。踏んで消した形跡はなく、燃えさしの状態。銘柄はラーク。遺体が所持していた銘柄(箱。開封済み)と一致。証拠採用のために、中年の警官一名が大胆にも梁に降り立つ。で、直接採取。ジップロックを提供。
  • 9階と10階を集中的に検分。メジャーを取り出して、様々な場所の寸法を測定している。
  • 3時過ぎ「ご苦労様でした」と言われて帰宅。その後も警官たちは色々と写真を撮ったりしていたようだが、とりあえず自室に戻る。疲れた。

 帰宅後。アタマが冴えて眠れず。
 以下、つらつらと思ったことなど。

  • そもそも妻の帰宅が遅かったこと自体、先月のはじめに長男を亡くした(住んでいるマンションの非常階段から転落した)奥さんのお宅を訪問した帰りだったから。
  • その話についても後日談は色々とあるのだが、個人情報なので詳しくは書かない。とにかく、ご長男は、愚息の小学校時代の同級生で、ものすごく優秀な子供だった。この春に中学三年生に進級したばかり。母一人、子一人の家庭だった。むごい話だ。転落が事故なのか自殺なのか、憶測はしないでおく。いずれであれ、本人にしか知り得ないことだから。
  • 朝になって、駐輪場に横たわっていた死体が、10階の住人であることが判明。
    50代とおぼしきご夫妻の長男。もう一人下に娘さんがいる。ご長男は、あんまり見かけなかった(あるいは別に住まいを借りていたのかも)が、娘さん、ご両親とは、エレベーターで時おり一緒になる。明るい、ごく普通の家庭に見えたが。合掌。

 昨年来、たいして数が多いわけでもない知り合いの周辺で、事故や自殺が相次いでいる。
 痛ましいことだ。
 月並みな意見だが、自殺は良くない。
 生きていれば、状況が変わることもある。
 死んでしまう前に、せめて医師の門を叩いてみるべきだと思う。
 あの抗鬱剤という薬は、私も世話になったことがあるが、魔法みたいに効く。まあ、効かない人もいるようだが。
 電気ショックも、効く人には電撃的に効くという。
 いずれにしても、絶望は、ケミカルな反応に過ぎない。
 ……と、そう思って、結論を出す前にもがいてみてほしい。

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コメント

それは大変でしたね。何が原因であれ、人が死ぬというのは心が痛むことです。
私も今、就活でもがいていますが、内定出るまでもがき続けてみます。そうすれば、いいことありますもんね。
小田嶋さんのコラムの朗読が趣味な、21歳でした。小田嶋さんも、お体には気をつけて下さいね。o(^-^)o

投稿: ダイスケ | 2006/05/13 19:54

20台半ばの弟を数年前に自殺で亡くしました。
弟の場合は7階でしたが、タバコの吸い殻が残っていたのはまるで同じ状況でしたね。
仲が良くていつも一緒の兄弟でしたので、飛び降りた「理由」を自分が全く理解できないことに混乱して、それを探すために鬱についての本などを読み漁りましたが、二三の兆候が当てはまるくらいで、それ以上はわかり得ませんでした。この世には絶望よりもタチが悪いものがあるのかもしれません。

弟を亡くすかわりに、我が子を亡くした親を得るというのが新発見?でした。正直に自殺と言えない父親(だって田舎の校長先生だったからね)に笑わなくなった母親。僕自身もいまだに「自殺」という言葉が発音できませんが、当時はサッカー見ながら「何で決められないんだオノ~!」とか叫べるようになるとは思いもしませんでした(笑)

鬱気味かな、と思ってるうちに医者に行く、ってのを常識にしたほうがいいですね。ACの鬱のCMももっと軽い感じにしてほしい。
あれ以来、会社で鬱と疑われる後輩(マジメなのに数日無断欠勤したりする)にはさりげなく(深刻にするのは禁物です)「いや~俺落ち込んだときに心療内科に通ってたんだけどさあ、最近の抗鬱剤って効くんだよね~」なんて言ってます。
あの人危ないですよって逆に上司に告げ口されちゃってるかも知れませんが(笑)

投稿: NORI | 2006/05/13 20:17

>NORIさん
 自死遺族という立場の人々を何人か知っていますが、あんまり無事な人はいません。
 自殺は、あらゆる意味で、破壊的な結論だと思います。
 私自身、何人かの知人を自殺でなくしていますが、彼らの一人一人について、いまだにうまく整理がついていません。

 飛び降りを考えている人間は、想定踏切位置から、色々な物を落としてみるもののようです。
 ずっと昔、とある出版社の外階段から飛び降りた若い友人がいました。
 彼は、新入社員研修のダミー雑誌企画で「ものの落ち方」という主旨の記事を発案、執筆していたのだそうです。様々なものを階段の踊り場から落として、その落ちるスピードや、落下後の変形具合などをレポートした記事です。
 で、その奇妙な記事を書いた一年ほど後に、実験に使った階段の同じ場所から飛び降りたのだそうです。
 その一年の間(あるいはもっとより以前から)、彼は、ずっと飛び降りることについて考えていたか……と、そう思うと哀れでなりませんでした。
 まとまりのない話ですが。
 サッカー引き分けでしたね。
 合掌。
 

投稿: 小田嶋 | 2006/05/13 22:05

コメント恐縮です。サッカー残念!

>奇妙な記事
は今になって思い当たることもあって涙が出ました。

建物の外階段を見て、「DNAとやらは俺も飛び降りる気にさせることがあるんだろうか?」と考える恐怖は、実はまだ拭いきれていません。
運よく、というか偶然含みの微妙なバランスで、親も僕も目立った壊れ方はしなかったとは思いますが。
例えば数日後、親と一緒に弟の部屋を片付けに行ったとき。大家さんの顔に、ちょっとでも迷惑そうな、あるいは蔑むような色が浮かんでいたとしたら?
大家さんが涙を流してくれる人だったのは偶然にすぎなくて、もしそうでなかったらと考えると実は怖かったりします。

他人に期待しない傾向のある自分にとっては、周りの人たちの(多分にウェットな)同情・慰めが一番助けになったのが意外でした。葬式というセレモニーの必要性も。
「うちのジョンもこないだ亡くなってねえ寂しさは一緒だよ」と涙ながらに慰めてくれるおばさんも中にはいましたが(笑)

奥さんやお子さんのいる方の自裁の凄惨さはまた想像を絶します。しかし遺族にとって「あの人は私にとって特別でした」と悲しみを表明されることは普遍的に慰めになると思います。

ううむまとまりがない上に暗くしてしまいましたね。すみません。寝よう(笑)。

投稿: NORI | 2006/05/14 02:21

眠れなくなっちゃったのでついでに。
今後の参考として、遺族に言っちゃダメな一言をば。
「もう立ち直った?」「元気になった?」
母親はこれを一年後に複数から言われて相当ヘコんでました。相手は善意で言っているんでしょうから全く勝手なんですがね。

だから僕は葬式は良くても何回忌とかの法事は嫌いです。遺族と参列者の意識のズレが残酷なまでにあらわになりますからね。故人のことを静かに想いたい日に、隣で赤ら顔のおじさんが昨日のテレビのこととか話してたりして。
何十回忌とかになれば意識のズレも収束していくんでしょうが。それはそれでよくわからない空間ですよね。

投稿: NORI | 2006/05/14 02:57

いつもお勉強?させて頂いております。。。

私は・・【遺族】ではありませんけれど・・15年経った今でも抜け出すこと?ができないでいます。。。
同性の友人でしたけれど・・そのことに深く関わってしまったから。。。
引き金に指がかかっているのはわかっていた・・・
「・・・助けて・・よ・・・」。。と何度も電話をもらっていた・・・・・。
それなのに・・・・・。

彼女がいなくなっても・・毎日。。は過ぎていきました・・・。
サッカー観戦。。etc,.....
それなりに楽しく。。笑いながら。。過ごしてはおりますが・・・。

5年ほど前から・・【命日】。。この日だけ!。。は・・とことん自分を責め・・何もしなかったこと。。を悔い・・想いっきり!泣きます・・・。
・・・自分を正常?に保つため。。に・・・・・。

NORI様。。。
【遺族】。。でなくとも・・遺族と同じような意識の持ち主?はいるものです・・・。
どこか。。で・・・NORI様。。の弟さんのことを偲んでいる方。。が・・いらっしゃることでしょう。。。

***訳のわからないコメントになってしまいました。。。
お許しください。。。

投稿: PURE | 2006/05/14 14:36

PUREさん。
コメントありがとうございました。
僕は「遺族」を特権的に書きすぎてしまったかもしれません。幸い、というか何というか、僕には弟以外に近しい人の事例がありませんので、小田嶋さんやPUREさんの感覚を推し量ることしか出来ないのですが。。。苦しいですね。
身近でなくても(例えば芸能人とかでも)ある日その人がいなくなった。。。その喪失感や虚無感は十分に重いものだと思います。

弟の件があって、今回初めて文章にしたのですが、僕の軽くなる気分と裏腹に、皆さんを黒い気持ちにしてしまったかも(単にコメントしづらいだけかも)と申し訳ない気持ちです。
クスリの件で思い出したことがあるのでそちら「うるうる」にひとつ書いて、僕のは打ち止めにしときますね。

投稿: NORI | 2006/05/14 21:04

従兄弟が叔父と叔母に殺されるということがありました。俺の23歳の誕生日でしたか。

それがあった為か、加害者の人となりと供に被害者のそれも洗うべきではないのかな、と考えています。近頃、二姉妹の殺人事件の公判がありましたが、父親と兄という人の発言を聞いていて、この親子では娘も推して知るべしという不謹慎な考えがどうしても脳裏をよぎります。というか、これが不謹慎とされるところが、いつまでたっても殺しのなくならない訳なのではないでしょうか。

殺される側にも訳がある。そう確信しています。しかし、殺した側は罪がある。それは変わりませんけれども、殺される側の事情を伏せるのは不誠実であり、反面教師の面を知るべきなのではないかと考えます。

投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/05/14 23:32

>消化器が投げ落とされた

消火器ではなく胃袋や大腸が落ちてきたのですか?

投稿: うp男 | 2006/05/18 02:04

>うp男さま

胃袋?
ああ、消化器→消火器ね。
訂正しておきます。
カエルは、異物を呑み込むと、胃袋ごと吐き出すんだそうです。トリビアの泉でやっていたんだとか。あたしは見てませんが。
アナコンダが、未消化のイグアナを吐きだした映像(身軽になって逃げるために、消化器内の内容物を吐きだして逃げる)は見たことがあります。
全長1.5mのイグアナ。半ば消化済み。
なかなか凄い絵でした。

投稿: 小田嶋 | 2006/05/18 02:25

若い大人も自殺行動増加 抗うつ剤パキシルで警告

 【ワシントン12日共同】日本でも販売されている抗うつ剤「パキシル」(一般名・塩酸パロキセチン水和物)を服用した20代を中心とする若いうつ病患者に、自殺を試みる行動が増える傾向があることが分かり、米食品医薬品局(FDA)が12日、医師に対し服用者の慎重な観察を求める警告を発表した。
 FDAは子供の自殺傾向を強める恐れがあるとして2004年、パキシルなど抗うつ剤全般に強い警告表示を義務付け、その後、成人患者への影響を調べていた。
 製造元の英グラクソ・スミスクラインが総計約1万5000人が参加した複数の臨床試験の結果を分析、FDAに報告した。それによると、自殺を試みる行動はパキシル服用者で11人(0・3%)と、偽薬を飲んだ患者の1人(0・05%)より多く、11人中8人が18-30歳と比較的若い年齢に集中していた。
(共同通信) - 5月13日11時8分更新

街路に出たとき、人々を見て最初に頭に浮かぶ言葉は「皆殺し」である。

<E・M・シオラン>

投稿: peculiar | 2006/08/01 13:47

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