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2006/05/13

うるうる

 前のエントリーで、抗鬱剤について書いたので、ちょっと補足を。
 サッカー日本代表のスコットランド戦についてはノーコメント。
 あんまり身を入れて観戦できなかったので。

 私が抗鬱剤の世話になったのは、アルコール依存の治療で精神安定剤を飲んでいた時期。なんでも精神安定剤(銘柄は忘れた)を服用すると、鬱状態に陥る人がいるらしく、それをキャップする意味で処方されていた。
 服用していた期間は、8ヶ月ほど。
 その間に副作用で10キロほど太ったが、まあ、それはそれ。仕方がありません。
 で、私の場合は、抗鬱剤の方がえらく効いたようで、その薬を飲んでいた時期は、気分が昂揚するのみならず、人生観までちょっと変わっていた。
 
 無論、薬で得ていた多幸感は、薬をやめれば去ってしまう。
 でも、一度あのすっきりとした青空みたいな気分を味わうと、事後が違ってくる。
 たとえば、頂上からの景色を一度でも見たことのある者は、キツい登り道にも簡単にはめげなくなる、と、そんな感じ。
 それに、薬みたいなもので簡単に気分が爽快になるということを経験すると、「苦悩も絶望も、しょせんは化学的な反応に過ぎない」という開き直りが生まれる。
 個人的には、私が抱えていた抑鬱は、アルコール由来(つまり、アルコールが切れている時の離脱症状としての抑鬱感。アルコール依存者は、禁断症状の憂鬱と、泥酔の闇の間を振り子のように行き来している)のものがほとんどだったわけで、その意味から言えば、私の場合のなりゆきは、抗鬱剤の力で、人生をやり直したというスジの話ではない。
 でも、とにかく、軽い鬱であっても、鬱を自覚している人には、一度ダメ元で、心療内科に相談してみることをおすすめしたい。役に立たなかったからといって、たいしたダメージにはならない。せいぜいが数千円の出費。いや、そんなにかからないかも。
 薬なんかに頼らないで、自分の精神力で乗り切らないと……みたいな、そういう真面目な考え方をする人が鬱病に陥りがちなのだそうだが、ううむ、軽い気持ちで心療内科に駆け込むような人は、そもそもあんまり鬱病とは縁がないのかもしれない。

 いずれにしても、あのACの「うつ」のCMは、感じが悪い。
「うるうるっと」(2年ほど前に頻繁にオンエアされていた最初のバージョン。「つらかったんですねっていわれて、なんかうるうるってきちゃたんですよね……」とかなんとか)の時の女性タレントの、甘ったれた感じのしゃべり方は、鬱で悩む人々に対しての、世間の誤解(←何を甘ったれてやがるんだ! みたいな)を助長しかねない感じだった。特に、「うるうるっと」という、古い世代の日本人にケンカを売ってるみたいな軽薄な言葉使いをあえて選んだのは大失敗だと思う。「若者らしさ」や「気軽な感じ」を演出しようとしたのかもしれないが、まったく的はずれ。単に考えの浅い、薄っぺらな印象を垂れ流したのみ。患者自身の体験談に見せかけて、実はタレントさんを使っていたのも悪印象だった。だまされた感じを受けた視聴者は多いと思う。

 最近までやっていた「いつからですか?」「いつから、がまんしてるんですか?」「いつから悩んでいるんですか?」とたたみかけてくるバージョンもNG。
 「いつから」の発音が「ぇつから」みたいで気持ちが悪かった。
 つまり、これもまた非常にベタついたしゃべり方がマイナスイメージを決定づけていたわけですね。
 どうしてACの広告ってあんなのばっかりなんだろう。
 もしかして、鬱の人間を追いつめるのが真の目的なのか?
 黒幕は戸塚校長&石頭都知事とか?
 おそらく、戸塚校長に言わせれば、鬱病患者とかは、「甘やかされたおかげで、弱く育ってしまった戦後教育の犠牲者」なんだろう。今週号の文春の寄稿は、ほんとにひどい。バカ過ぎる。

 いかん。話がバラけてきた。
 寝よう。

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コメント

鬱→仕事うまくいかず→さらに鬱→抗うつ剤服用→副作用で体調崩す→仕事白紙に→さらにさらに鬱のスパイラルにハマった経験あり。
まあ、抗うつ剤は数種類あるので自分にあった物を見極めようってことです。

投稿: Noisy | 2006/05/14 10:31

 3環系とか4環系とかいった古い世代の抗うつ薬には抗コリン作用などの有害作用が多くあり、長期間服用できないとかいった問題点があったのですが、90年代以降に認可されたフルボキサミンなどのSSRIやSNRIのような新世代の抗うつ薬には有害作用はほとんどなく、かつ、効き目が出るまでの時間が短いため、非常に使いやすい薬になってます。
 統合失調症だとか抗不安薬についても、かなり進歩がありますので、昔のイメージで抗精神薬をとらえていると誤解があるかと思われます。

投稿: Inoue | 2006/05/14 13:25

抑鬱状態に対して薬を飲むこと、特に飲み続けることに強い抵抗があった者ですが、「しょせん気分なんてものはケミカルな反応」と割り切ってしまうのは良いかもしれませんね。あと、AC なんとかしてくれにも一票。

投稿: くま | 2006/05/14 17:34

まあ、私の場合副作用と言っても倦怠感や胃腸を傷めた程度ですし、元々体調があまり思わしくなかったところへのトドメという感じだったので、薬を飲まなかったとしても同じ結果になっていたかも知れません。
ただ、すべての抗うつ剤が万人に同じように効くというものではない(副作用だけで気分的な効果はほとんどなかった)と、頭の片隅にでもとどめておいてもらえればと思います。

投稿: Noisy | 2006/05/14 21:03

「苦悩も絶望も、しょせんは化学的な反応に過ぎない」というのは、特に落ち込みやすい人には素晴らしい概念ですね。ACもこんな感じで流してほしい。

ひとつ思い出したこと。弟の件があって色々本を読んで以来、「こりゃ俺も鬱に片足突っ込んでるわ」と思ったので、radioheadなど、ロックの歌詞に出てくるのでその名に馴染みのあったプロザックを輸入して飲んでみたことがあります。今思えば医師にもかかっていないのにめちゃくちゃですが(笑)

結果、全く効果なし。副作用すらなし。でも買って手元に置いただけで随分気楽になったことを思い出しました(相当苦しくなってもネットで入手するくらいならできるだろう)。
効かないということは、まだそこまではいってないということだろうとも思えましたしね。

まあでも、副作用や効果の有無についてはNoisyさんの仰るとおりだと思います。
残りのプロザックは今引き出しの奥に眠ってます。

投稿: NORI | 2006/05/14 21:51

2年前に身内を亡くしました。治療を始めて何週間にもならない内です。未熟な医師の乱暴な処方では、抗鬱剤も危険なときがあるようです。

投稿: m.t. | 2006/05/14 23:19

SSRIやSNRIは副作用が少ないとしても、
やはり注意は大事。自殺を誘発する危険もあれば併用禁忌もある。
基本的にはすべての薬で薬剤性アレルギーは起こりうる。
釈迦に説法でしょうが、「副作用が少ない」からこそ、「副作用が起こりうる」という用心深さも必要。

投稿: 元Q^2 | 2006/05/15 22:23

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