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2006/05/19

彼らのゲーム

 霊だの死だのと、シケた話が続いているので、ちょっと風向きを変えます。

 広告と雑誌原稿の違いについて、さる業界関係者との間で話がはずんだので、その周辺のお話をば。
 「雑誌記事と雑誌広告の違い」とはいうものの、出来上がりを見比べてみると、実はたいした違いはなかったりする。
 特に、昨今は、パブ記事というのが増えて、広告と記事の境界線は、ますますもって曖昧になってきている。
 でも、アウトプットの結果はともかくとして、制作過程について言うなら、両者の間には、まだまだ、かなりはっきりとした違いがある。

  • 前提から結論に至るのが記事原稿。
  • 結論から前提を導き出すのが広告のボディーコピー
  • 持ち上げるのが広告。クサすのが記事
  • 暴くのが記事。飾るのが広告

 と、一見もっともらしいが、じっさいのところ、以上にあげたポイントは、さして本質的な差異ではない。
 はじめに結論ありきのコラムだってけっこうあるし、提灯持ちのエッセーも少なくない。それに、最近の広告は、露悪から入るのがあったりする。広告屋さんたちの繰り出してくるレトリックは、まことにもってあなどりがたい。

 結論を述べると、一番の違いは、実は、発注者、すなわちクライアントにある。
 もう少し具体的に言うと、発注者が玄人であるか素人であるかというところに差があるわけです。

 雑誌原稿は、玄人が玄人に発注している。だから、滅多なことでは直しは発生しない。玄人の編集者が、玄人のライターの原稿に訂正を要求するのは、明らかな記述ミスがあるか、よほど原稿の出来がひどいか、でなければ、出版コードにひっかかる表現(スポンサー関連を含む)が含まれていた場合に限られる。
 一方、広告は、素人が玄人に発注するメディアだ。しかもその素人は、カネを持っていて、玄人の仕事に口を出す。うわあ。
 というわけで、制作過程はまるで違う。
 以下は、15年ほど前に、とある広告業界人と私がかわした会話。若干誇張してあるが、まあ、おおむね、こんな感じだった。
「だからさ。ラフの段階で切り札を切ると自縄自縛に陥るわけだよ」
「なぜさ」
「だって、ど素人のクライアントがチェックするんだぜ。初手から最高のデキだったら、その先は悪くなるばっかりじゃないか」
「最高のデキなら、チェックがはいらないんじゃないのか?」
「甘いな、オダジマ君。たとえば、宣伝部の課長がラフ案を見て『最高ですね。これでオッケーです』なんて言ったんだとしたら、そいつは、チェックマンの仕事を果たしていないことになる。だから、課長は『ここ、もう少しシャープにならないですかね』とか、くだらないこと言うわけだよ」
「クライアントってのは、そんなバカぞろいなのか?」
「クライアントだって苦しいんだよ。たとえば、王貞治みたいな人のプレーにダメださなきゃならん立場に置かれているわけだから。『フォームに安定感がない感じがするんだけど、きちんと二本足で立って打ってみてくれないかなあ』とか」
「王貞治って……お前、そんなに偉いのか?」
「いや、クリエイターとしての力量からすれば、その宣伝課長とオレの間には、高校球児と王貞治ぐらいの実力差は当然あるわけだよ。でなけりゃ、専門家に依頼する意味ないじゃないか」
「っていうか、専門家に依頼したんなら、その専門家の手腕を信じて、黙って任せれば良さそうなものじゃないか。それを、どうして素人の分際でいちいちチェックなんか入れるんだ?」
「そこのところがこの仕事の醍醐味でね。広告ってのは、視聴者や読者のために作ってるんじゃない。オレたちがやってるのは、あくまでも発注者を良い気持ちにさせるためのゲームなんだよ」
「じゃあ、アレか? ベルリンフィルを相手に、素人が棒振ってるみたいな世界なのか?」
「そう。カネ出してるのは、その素人指揮者だからな」
「それでも、チェックマンが一人ならどうってことはない。でも、一本の広告コピーを通すためには、最低でも5人ぐらいのチェックは通さないといけない。そうすると、当然五箇所程度の直しは入るわけだ」
「だから、第一稿には、ヤマほどツッコミどころを用意しとく。ここ直せばぐっと良くなるみたいなポイントを散りばめておかないとダメなんだな」
「……で、チェックを通る度にどんどん作品の質が向上していく、と」
「そう。そうしてこそチームの全員がハッピーになるわけさ」
今テレビで流れてるCMね、あれ、ラフ案はえらく凡庸だったんだけど、私がチェック入れまくって、なんとかあそこまで持って行ったんだよ、とか、クライアントのクソオヤジにそう思わせればオレらの勝ちなわけだよ」

 ん?
 この話、何かに似ていないか?
 ジーコジャパン?
 違うよ。
 小泉改革。
 純ちゃんのためのゲーム。
 
 寝よう。

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コメント

あれですよね。

自動車すらろくに作れない国が何故か弾道弾ミサイルと核爆弾が作れて、それは実はそれを怖がって憲法改正したくなっちゃう国からの心と身体のこもったプレゼントだったっていうオチと関わって…

きません。な。

投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/05/19 06:37

>「今テレビで流れてるCMね、あれ、ラフ案はえらく凡庸だったんだけど、オレらがチェッ
>クしまくってあそこまで持って行ったんだぜ、

以前に『朝日新聞』のCMをネタにしておられましたが、あれも↑のようなプロセスを通ってきたとすると、その「ラフ案」ってのは、どんなシロモノだったのかと…。まさか、取って着けたような“配達出発”のシーンはなく、全編があの“ドキュメンタリー”風のシーンだったりしたということでしょうか…。

投稿: truly_false | 2006/05/19 07:44

「広告と雑誌原稿の違いについて」から始まっている文章が、いつのまにが「広告の発注者が玄人の場合と素人の場合の違い」になっている。
そして結論が、
小泉総理が専門家に改革の原稿を依頼したのに、いつのまにか「総理が改革をやりました」という宣伝に使われている、ということでしょうか?
とても高い読解力を要求するブログですね。

投稿: 頭悪い者 | 2006/05/19 08:53

頭悪い人さん

発注者が
玄人=雑誌原稿
素人=広告
ということですよ。

普通の読解力があれば読めますよ。

投稿: 頭炭さん | 2006/05/19 09:33

つけたすと、

「小泉改革は突っ込みどころ満載の改革案をまず投げてくるよな?(=素人相手だと思ってる)」

という〆ですね。

投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/05/19 09:57

朝、読み直して、細かいところをちょっといじりました。
アタマの悪い人には見えない部分ですが。

私の文章の良さは、裸の王様の衣装と同じで、アタマの悪い人には見えない……と、アタマの良い人がいってました……が、彼は本当にアタマが良いのでしょうか?

投稿: 小田嶋 | 2006/05/19 11:11

雑誌原稿=国民一般の利益になる法案
広告=特定の人の利益になる法案

玄人の編集者=本来の国民のための総理(内閣)
玄人の広告屋=アメリカさんのための小泉(内閣)

広告屋=アメリカさんor小泉とするのか、

素人のクライアント=小泉or野党とするのか、

ひとつひとつ置き換えていったら、こんがらがってしまいました。
あとで、ゆっくり解読しようっと。

投稿: クッキー | 2006/05/19 12:12

 真面目に解釈する人たちがアタマを悩ませているんだとすると、ちょっと申し訳ないんで、種明かしをしておきます。

 小泉云々は、単なる思わせぶりです。ないしは、意味ありげなほのめかしってヤツ。
 ボブ・ディランさんがよくやっていた手口です。いずれにしても、きちんと細部まで考えて吐きだしたネタではありません。


 まあ、「ろくに検討してもいないラフ案を投げてよこす感じ」が、なんとなく、広告屋さんの手法に似ている感じがする、と、その程度に受け止めていただければさいわいです。
 ええ、私のエントリー自体、突っ込みどころを残したラフなわけで、だからこそ、コメント欄が盛り上がる、と(笑)。

投稿: 小田嶋 | 2006/05/19 12:38

面白いなあ。コメントがまた最高。

テレビCMでもたまに
「企画段階で、クライアントの担当者陣にどう説明(説得)したんだろ」
ってのがありますよね。面白いCMのときが多いんですが、そっちのが気になったり。
思い切り衒学的な修辞やら世辞やらでだまくらかしてんでしょうか。クリエイターにはそういう才能も必要、と。

逆に企画時点の案から想像できてしまうのは「うーん狙ったのはわかるんだけどね、外しちゃったね残念」になりがちですよね。

投稿: NORI | 2006/05/19 16:24

ジーコ・ジャパンはなかなかよい例えだと思うのですが。。
あえてツッコミどころ満載のメンバー選定、戦術でここまで来ましたが、W杯本番でビシっと決めて……くれないかしらん?玄人どころか神様なのですから。

投稿: かず | 2006/05/19 17:23

しかし、広告屋も終わっていいんじゃないですかね
自分たちで科学を探求し、それをもとに社会に技術、商品を提供して、社会を未来に連れて行く仕事をしている真のエリート達にたかって金を盗んでるだけの
落ちこぼれ連中がえらそうにしている時代はね

投稿: けん | 2006/05/20 07:54

本筋とは少しずれますが、今話題になってるK談社の某誌の盗撮騒動を思い出しました。
あれは記事自体の痛さもさることながら、クレームを受けた後の対応も素人としか思えないマズさでしたが。
それとも、弱そうな相手にはとことん居丈高に接するのが玄人クォリティー?

投稿: Noisy | 2006/05/20 10:14

今週号の週刊アガフ(朝日をバリバリ国言葉に直すとこんなでしょか)、やっぱりそういうオチだったみたいですね…心と身体のこもったプレzry

投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/05/23 14:06

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5月16日分の日記に書いた最後の方を再掲するけれど、これ、けっして細かい経緯がわかっていて書いたものではないのね。(テレビ、あんまり見ないんで印象だけだったんだよ)ちょっと引用↓以下。---------------------------------------------…えーと、話し変わるけ...... [続きを読む]

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