反抗と慰安
下のエントリー「グラフィティあれこれ」(に寄せられたコメントへのレスです。
長くなったので、独立エントリーにします。
>スノーケラーさん
>いつの間にかすっかり白人どもに搾取されてしまったロック
ははは。おっしゃる通りですね。
原初的な黒人のビートが産業化される過程の中で、ロックは、より大きな購買力を持った白人家庭のお坊ちゃま(ならびに、異文化崇拝傾向を持つ経済大国=日本、の青少年たち)向けの、高級ソウルフードみたいなものに作りかえられたのだと思います。だからってそれが必ずしもニセモノだとは私は思わないのですが、でも、黒人さんたちにとって、まがいものに見えるのは当然でしょう。われわれにとっての、ハリウッド製チャンバラ映画みたいな感じで。
でなくても、ミックジャガーが自分の息子をイートン校に入れていたりする(もっともミック本人は、「だから何だ? オレはのっけからカネ目当てだぜ」と言うんでしょうが)のを見てもわかる通り、商業ロックの成長過程は、ワーキングクラスヒーローが搾取階級に化けていく過程そのものだったりします。
ずいぶん昔、ブラックミュージックマニアである年少の友人に
「ポールサイモンなんて、総合商社みたいなもんじゃないですか」
という感じの異議申し立てを浴びたことがあります。
つまり、われらがポール・サイモンが、ジャマイカ、ペルー、南アフリカといったあたりで取材した音階やビートをネタ元に、インテリ向け都市音楽を生産している成り行きが、第三世界から原料作物を買い付けてそれを紅茶ブレンダーみたいな人たちに販売している総合商社と同じだと言うのです。
「っていうか、音のセシルローズですよ」
そう、より端的に言えば、土人にビー玉をバラまいて、象牙を輸入していた植民地商人と同じじゃないか、と。
あんまり乱暴な理屈ですが、まるで当たっていないわけでもないと思います。
でも、音楽であれなんであれ、何らかの表現を普及させる上で、商業的な要素が混入するのはこれは、不可避ななりゆきです。
というよりも、国境を越えて全世界に流通する力を持っているのは、ただひとつ「商品」のみなわけで、である以上、商品化という過程を踏まない音楽は、しょせんローカルな存在(←それが悪いと言っているのではありません)にととまらざるを得ないわけです。
別の言い方をするなら、音楽の商品化は、音楽産業に搾取過程を混入させる一方で、作品としての音楽の洗練(←まあ、堕落と言えば堕落ですが)を促進してもいるわけです。
で、洗練がある段階に到達した音楽は、最終的にはイートン校臭くなるわけで、つまり、当初持っていたはずの反抗の魂(←ま、「カタログスペック」ないしは「仕様」ってヤツですがね。「当製品は、75mgのレジスタンスを含有しております」みたいな)を喪失したクリスマスの慰安になり果てる、と。
結論として、音楽は世界を変えるのでしょうか?
おそらく、音楽は、それにカブれたおっちょこちょいの人生を狂わせる(私自身かなり狂わされました)という意味で、世界の枠組みを少しずつ変えているのだと思います。
で、優れた商業音楽は、少年を誘惑し、青年を扇動し、そして、われら中高年を慰安しつつ、結局、雇用と産業とカネを生んでいるわけです。めでたしめでたし。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
音楽って基本的に、女(異性)にモテたい奴がやるもんだと思ってました(笑)。
まあそれは極論としても、今の日本で女子供に受けない文化に商業的成功はないわけで、「いかに自分が社会不適合者のロクデナシか」を力説するような音楽はマイナーな位置にとどまらざるを得ないんでしょうね。
投稿: Noisy | 2006/02/06 00:21
そんで、足腰のすっかり弱くなった私たちは
ボーカルまでも打楽器のようなHIPHOPの強烈なリズムにはもうついて行けんので、負け惜しみを吐きつつ、今となっては十分にメロディアスな懐メロックに逃避するわけですね。
投稿: スノーケラー | 2006/02/06 01:00
う〜ん、皆さんポピュラーミュージックに諦観をお持ちのようですが、それはアメリカ、イギリスばかり見ているからだと思いますよ。
ブラジル、今、凄いですよ! 僕も数年前まではポピュラーミュージックに勃たなくなっていましたが、ブラジルと出会ってEDが治りました。
アメリカ式の白人・黒人なんて二項対立はブラジル音楽が軽く突破してくれます。
イチ押しはセウ・ジョルジSeu Jorgeです。
サッカー選手で言えばアドリアーノのような本物です。
2人ともファヴェーラ(ブラジルのスラム)からはい上がってきた人間で、才能の塊だけど、性格のいい男という共通点があります。だまされたと思って聞いてみてください。
非常に長くなって恐縮ですが、彼の書いた歌詞を掲載しておきます。彼本人は無条件で掲載を許してくれました。
『俺はファヴェーラ』
ファヴェーラは犯罪者の巣窟であったことなどない
そこにいるのは、社会から疎外された素朴な人たちだけだ
でも そういう事実は新聞には出ない
ファヴェーラは社会問題だ
そうだ でも俺はファヴェーラだ
威厳を持って言える
俺の知る人々は 働き者だ
そして 社会保障の世話になったこともない
だけど、あそこに住んでいる
貧乏だから 仕方がないんだ
彼らにあるのは
食うに足りない賃金と 普通の暮らしをする権利だけ
投稿: toshi | 2006/02/06 03:44
突然まとまってるのは商業だけに論点ずらしたからか。dj crushやnujabesは世界的に評価されていて、外見、曲もまがいものとするやつはいない。知らないだろうけど。
投稿: takki | 2006/02/06 09:51
http://www.yomiuri.co.jp/hochi/geinou/feb/o20060205_70.htm
商業主義とリアルさのバランス取りに失敗するとこんな事態になってしまいますという例。
投稿: epi | 2006/02/06 13:24
メタメタワロイますたwすばらしい!
投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/02/06 17:22
ここ数日の書き込み凄いですね
やはり、音楽については、人それぞれの世界感というか固定概念があるんだな~と
CDラックは、内面を見られているようで、何となく見られたくないもので(本棚、ブックマーク辺りもですかね)、敬愛するジャンルに対する領空戦犯には、あたかも自分自身の内面を批攻撃されているような気がして、容赦なく反撃する、といった流れものもわかるような気がしますが。
読みながら、学生時代のレンタルショップでのバイトの時の出来事を思い出しました
(サラリーマン風の男性が血相抱えてカウンターに来て、用件を聞いたら浜田省吾と尾崎豊を「J-POP」から「J-ROCK」に移動しろ、と抗議を受けました。その他2件ほど。映画ではカテゴリー分けに関する抗議は無かったんですけど)
投稿: tmac | 2006/02/06 17:35
POP 泡だからかな… ROCK 岩で…
投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/02/06 17:40
じゃ じゃあ しません!ぷんぷん!
ひとりごとします!
どうにも歌謡曲を聴き続けるのが苦痛になってた、…
17年前、ですか…美里さんの歌が、なんでこんな休み
休み息継ぎしながら歌うんだろう、と思ってました…ま、
感じてた、でもいいんですが、もう…サザンの歌の、お
飾りで使う英語にも、
ガリ勉を二浪目でやっとし始めて、その後背骨が曲が
るのも知らず身体斜めにして机にしがみついていた
ある日、流れてきた歌が、ぐっばいあわぱすてるず’ばっぢ…こりゃ、せいらーふくをぬがさryよりも、ずがん
と来まして、はい
これを追っかけてたら、知らない家に、いろんなとこに
手を出す香具師になりました…はっきりゆって、ヲタとしか
ゆいかたが無い筈だったんですが…
ifもしも…のマルコムマグダウェルがこーねりやすに
そっくりやん!くらいのことがゆえる身体になってし
まったという…ま さ に パワフルだぜ!女の子も
ほっとかないぞ!…ってわけでも、なかった?かな?
ま、オリーヴな乙女もなびいたりして、生き方めた
おかしくなっていきましたな…(少し、嘘があります
あの時より凄い風が吹いたことは、ないですね
今のところ
如果 が、次いでなんです そん次が せいらーふく
三つは多いかな…歌は世に釣れ世はryってことで
寝ます 長いひとりごともうしわげながんす
#さて、こっちには書き込めるかな…えい
投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/02/07 02:14
-----------
「っていうか、音のセシルローズですよ」
そう、より端的に言えば、土人にビー玉をバラまいて、象牙を輸入していた植民地商人と同じじゃないか、と。
」
-----------
グレスランドについては優れたドキュメンタリーフィルムも残ってますし、その後ののインタビューなどもございますので是非ご覧になっていただきたいなと。彼らは一様にサイモンに対して感謝しています。
レディスミス・ブラック・マンバ-ゾなどは「私たちはー、1983年にー、ポール・サイモンに出会ったことをー、忘れない~」と見事なハーモニーで謝辞をささげています。
これを見た上でサイモンの仕事を捕まえて植民地商人だというのであれば、現代の優れた南アフリカのミュージシャンがユダヤ人にころっと騙される「土人」だと言っているのと同じことであり、きわめて差別的な発言だと思われます。
と、ご友人お伝えください。
なーんて、くだらん亀レスでした。すんまそんです。
ただしサイモンもロス・ロボスに対してはずいぶんひどいことをしているらしいし、ま、一筋縄では行かんですね、この手の話は。
投稿: さいもん | 2006/05/03 23:27