広告の裏
PC脇のテレビは、ふだん、音を消した状態で垂れ流しにしてある。
視野の10分の1ほどを割いて、非常時にそなえる感じ。で、面白げな画面が現れたら、リモコンの音量ボタンを押す。
いや、つまり、テレビは、音を消しておくと、案外邪魔になりませんよ、というお話です。
で、今日は、「報道ステーション」で、古舘君に口パクをやらせておいたのだが、ふと気がつくと、AC(公共広告機構←早口言葉ですか?)のCMがなんだかんだで、10回ぐらい流れている。
おかしい。ちょっと異常な頻度だ。
おそらくは、松下(例の石油温風ヒーターの事件)関連のCM枠が差し替えになった関係(あるいは「みずほ」の線かも)だと思うのだが、あの時間帯にああいう頻度(連続で2回というのがけっこうあった)でACのCMを見るのはけっこうキツい。
念のために、CMの内容は以下の通り。
町中を歩いているシマウマの群れ。住宅街、駅前、交差点、校庭、団地の緑地など、町の様々な場所で、三々五々、シマウマたちが思い思いの時を過ごしている。そんな中、深夜とおぼしき住宅地の路上に幼い仔馬が一匹。ここでテロップ
「仲間から はぐれた獲物が 狙われる」
そして、キメのナレーション(withテロップ)
「連れ去り事件の69%は、子どもが一人でいるときに起きています。一人にならない。一人にさせない。 ♪エーシー~♪」
言いたいことはわかる。
でも、このCMは不気味過ぎる。
- ピアノの探り弾きみたいなBGM。不安定なリズム。不協和なコード……不安を煽りたいのであろうが、狙いが露骨すぎて逆効果。ていうか、単に不快。
- 都市生活者をシマウマにたとえるメタファーは、無神経であるのみならず、不適切だと思う。サバンナにおける弱肉強食は、現代社会の犯罪危険性と同一視できるものではない。なんとなれば、ライオンによるシマウマ襲撃が自然の摂理であり、生存戦略上の正義であるのに対して、一方、犯罪者が子供を狙うのは、どこからどう見ても不正義に過ぎないからだ。
- つまり、何が言いたいのかというと、「はぐれた獲物が狙われる」というこのコピーは、犯罪発生の責任を被害者の側に負わせんとする思想をはらんでいるということだ。でなくても、シマウマをめぐる「獲物」の物語は、犯罪被害者を「愚か者」「弱者」ないしは「生存競争の敗北者」という役柄に貶め、一方、犯罪者を「勝者」に分類している。無神経だと思う。
市民の不安を煽ることで防犯意識が向上する、と、CM制作者は、ごく単純に、そう考えているだけなのかもしれない。
でも、私の目(うん。ひが目だよ)には、なんだか、愚民蔑視みたいなものが見える。
ほら、お前らパンピーは、しょせん子羊なんだから、びくびくして生きて行かないとだめだぞ(藁)ぐらいな……
別の言い方をするなら、ACが、一般人をいとも無造作にシマウマになぞらえることができたのは、彼らが、ふだん、視聴者を「愚かな群生動物」ぐらいに考えていることの裏返しなわけだ。
ACの広告は、このバージョンに限らず、どれもこれも必要以上にネガティブだ。
- 元彼の元カノの元彼の……というエイズのCM
- 「メンバーを探しています」と、元マリノスの井原が暗い表情で繰り返す(←しかも雨に打たれながら)骨髄バンクのCM。
- 「勉強→叱咤→リングで打たれる→声援」「なんのために頑張るんだ」→「タオル投げる」。意味分からん。「子供と、話そう」意味分からん。のCM。
- その他、幼児虐待防止CM、自殺防止CM、愛し方が分からないCMなどなど。
鬱パワー炸裂。メッセージもさることながら、音選び、映像の印象、なにからなにまでが、とてつもなく暗い。状態の悪い人が見ると、一発で鬱のスイッチが入ると思う。
おそらく、CM制作者にしてみれば、ACの仕事は、「重い」、「批評的な」、あるいは「文学的な」、「表現」が許される数少ない機会なのであろう。
実際、一般企業のCM制作において、許されているのは「ポジティブ」で、「アップビートな」「煽り系」の「売り上げ増に結びつく」「軽くて」「前向きな」コンセプトの表現に限られているわけで、少しでも暗い内容を含むメッセージは事実上封印されている。
ということは、結局、ACみたいな「何かを売るためのCMでない現場」で後ろ向きのパワーが必要以上に強力に作用するのは、これらのことの反動であるのかもしれない。
つまり、広告屋さんたちも、彼らなりに苦しんでいるのだよ、と。
とすれば、彼らに対しては、この決まり文句をぶつけておくべきだろう。
お前の個人的な思いは、広告の裏にでも……
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コメント
やっぱり井原はレッズの人ではないんだなぁというお話。
投稿: 有芝まはる(ry | 2005/12/10 10:41
おお、そうでした。井原は現役生活最後の二年間をわが浦和レッズで過ごしたのでした。
記憶から消えていました。
あんなにたくさん、しかも熱心に、井原のいたレッズの試合を見ていたにもかかわらず、です。
記憶には神秘的なところがあります。
特に、40歳を過ぎてからは、苦しんだ体験や面倒な約束を恐ろしいほどきれいに忘れるようです。
老化というのは、わりと合理的に進行するもののようですね。えへへ。
投稿: 小田嶋 | 2005/12/10 11:32
井原さんへのフォローをひとつ。
先日、NHKのニュースにて、「ドイツW杯にかける思い」とかいうタイトル(正確に思い出せません)で、レッズの坪井選手がインタビューに答えていました。
「レッズに入団した頃は、1対1の当たりの弱さとか課題が多かったけれど、井原さんの動きやコーチングを参考に日本代表に選出されるまでに成長できたと思います。本当に井原さんの存在が大きかった。」とコメント(詳細まで思い出せませんが)。
井原さんは選手としては下り坂の時期だったので、印象に残らなかったのは仕方ないです。
ACのCM出演依頼を引き受けてしまったのが、間違いでしたね。
投稿: ar | 2005/12/10 13:59
AC(公共広告機構)が誇大広告を出しているようではどうにもなりませんね。そのうちJAROが同じ事をするかも……。
投稿: AC | 2005/12/10 21:32