« 再会 | トップページ | ウヨ曲折 »

2005/10/26

カリスマ議長

 秋晴れ。
 午前中はテレビをザッピング。
 米FRBの次期議長が指名されたというニュースを見る。
 ニュース自体はどうでも良い(関心ありません)のだが、アナウンサーが前職のグリーンスパン氏に対して「カリスマ議長」という言葉を使っていたことにちょっと注意をひかれた。
 放送原稿はこんな感じ。
 《「カリスマ議長」と呼ばれたグリーンスパン氏の後を受けることになるバーナンキ氏にとって……》
 呼ばれたって、誰が呼んだんだ? こんなこっ恥ずかしいカビカビの流行語をいまだに使ってるのは日本のマスコミの、それもワイドショー関係者だけなんじゃないのか?
  第一、「カリスマ議長」に相当する英語がアメリカに存在するのか? 

 とはいえ、これはこれでけっこう使われている表現みたいで、「グリーンスパン カリスマ議長」でgoogle検索をかけてみると27件ほどヒットする。
 http://www.google.co.jp/search?num=50&lr=lang_ja&ie=sjis&oe=sjis&q=グリーンスパン カリスマ議長
 神戸新聞の社説は、
「カリスマ議長の名をほしいままにした」とまで言っている。うーんほしいままに、ですか……。
http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/00005352ss200605230900.shtml

 通常、この「カリスマ○○」という言い回しは、特にニュース原稿みたいなカタめの文脈で使われる場合、単純な称揚を意味しないことが多い。声望の高さを持ち上げている一方で、その裏に2割かそこいらは揶揄のニュアンス――具体的には、「軽薄才子」「バブル人気」「うさんくさいヤツ」「虚名」「ハッタリ野郎」ぐらい――を含んでいるのが普通だ。
 とすれば、グリーンスパンのような人物(つまり、マジで尊敬されているヒト)に対してこの接頭辞をつけることは、表現として不適切であるのみならず、報道として死んでいる。――って大げさか。
 いずれにしても、「カリスマ○○」という、既に手垢でベカベカになっているこの語法は、「カリスマ経営者の堀江氏(笑)」だとか「カリスマニートの○○君」といった感じのヒネリというのか、「対象に向けた微妙な屈折」みたいなものを介在させないと使い物にならない、はずだ、と私は思うのだが、ニュース原稿を書いた記者君はどうやらそう思わなかった。
 有名人だからカリスマ議長――と。
 まあ、ジャーナリストは、素直な方が良いのかもしれないけどさ。

 「カリスマ○○」の「○○」の部分には、本来、「軽い」肩書きが置かれる。
 「カリスマ美容師」「カリスマ店員」「カリスマ主婦」と、この言葉が使われはじめた当初、カリスマに擬せられた人々はいずれも、取るに足らないと思われる職種に連なる人々だった。
 からくりとしては、「スター性」や「威厳」とは無縁な立場にありながらなお輝いている人物がカリスマと呼ばれたのであって、神々の座にあってではなく、地味な立ち位置で輝きを放っていたからこそ、彼らは「カリスマ」と呼ばれたわけだ。
 つまり、「カリスマ」は、少なくとも発生当初は、純粋に傑出した個性を賞賛するための下克上の形容辞だった。

 しかしながら、マスコミで多用されるうちに、「カリスマ」の語義は微妙にひねくれてくる。カリスマと呼ばれた人々自身も、周囲からのジャパナイズ(同調化、矮小化)圧力にさらされて、徐々に変質して行く。盲目的な賞賛。見世物みたいな知名度。監視に似た注目。あら探しの視線。執拗な当てこすり。で、彼ら自身、根っこの方から腐ってくる。
 と、そうこうするうちに、この接頭辞のニュアンスは、俄然「床屋の分際で芸術家気取りのクソ野郎」を攻撃し、「洋品屋の販売員ふぜいが、何を勘違いしてるのかタメ口で客に応対して、のみならず演説までぶってやがる」女をたしなめる響きを帯び始める。
 そう。
 「身の程をわきまえない人間への過剰な非難」
 いつものプロット。この国の病理です。

  • 分際を忘れた人間。
  • 調子コイてブイブイ言わせてるヤツ。
  • いい気になってる女。
  • 天狗になっている男。
  • オレ流なヒト

 と「カリスマ」は、いまやニッポンの保守層が最も嫌うキャラクターなわけで、そういう言葉をグリーンスパンみたいなひとのアタマにかぶせるのは、やっぱりジャーナリスト失格。
 カリスマ首相のコイズミさん。
 この言い方はアリ。コイズミさんは、カリスマですね。良い意味でも悪い意味でも。

 カリスマ知事の田中さん。
 うーん。これはちょっと違うな。だってそもそも魅力が無いんだから。

 かりそめ知事 ぐらいがいいところでしょう。

 

|

« 再会 | トップページ | ウヨ曲折 »

コメント

Gooble で 27 件って、結構使われてないっていう数字じゃないかと思ったんですが。

ついでに知り合いの米国人に Greenspan の事を Charismatic って形容するかどうかを聞いてみたんですが、彼いわく「Charismatic は外見・表情や話しぶりが魅力的である、という意味で使われるが、グリーンスパンの謎めいたスピーチはそれとは正反対だろう」だそうで

念のため
"charismatic chairman" Greenspan
で Google したら 16件しかヒットしませんでした

投稿: kozono | 2005/10/26 05:59

>かりそめ知事 ぐらいがいいところでしょう。

これだったのか。

「カリスマ議長」が適切だったかどうか、という話と「妙なキャッチフレーズつけすぎ」という話がありますが、後者は世界陸上やバレーボールでひどいことになってますね。

「フジヤマのトビウオ」とか「暁の超特急」とかは、特別すごい人にだけつけたと思うのです。

マジックジョンソンなんてそのまま名前になっちゃった。

投稿: のぶ | 2005/10/26 08:50

「カリスマ俳優」でググルと、
韓流スターばかりがヒットするのはなぜでしょう?

「カリスマ男優」の場合は、もちろんあの人ですが。

投稿: スノーケラー | 2005/10/26 17:31

 グリーンスパンの前任者のボルカーは、徹底的なドル高を維持して、「ドルの守護神」と言われてましたね。グリーンスパンは漸進的かつ柔軟に政策を変更するので、これといって異名はなかったような。

投稿: Inoue | 2005/10/26 18:51

今さら(しかも偶然)ですが。
「イン・ヒズ~」の11/1号SPA!誌、書評読みました。
 
よい露出、コメントかと。
 
朝日さんもがんばってくれてるぢゃありませんか。
編集子Kさん、すっかりお見かけしなくなりましたがお元気でしょうか?
 
ん?かりそめ知事の連載、まだやってる……。

投稿: かず | 2005/10/27 11:13

はいはい、元気ですよ。
SPAは知りませんでした。
ほか、目撃情報がございましたら
みなさん報告お願いします。

投稿: 編集子K | 2005/10/27 13:25

お゛お゛。Kさま、お元気そうでなにより。
お休みとれました?
 
「今さら」などと書いてしまいましたが、よく考えると発売されたのは“つい”先月。
書評がいま出てもおかしくないですよね。
 
編集者の方がご存知なかったとは。
仕込みではない??
それとも宣伝は完全別働部隊なのか。
 
ともあれ。
小田嶋センセはウハウハ。
Kさまには社長賞なりボーナスがどーんと出ることを陰ながらお祈りしております。
ちょっとだけ。

投稿: かず | 2005/10/28 21:46

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/52951/6590041

この記事へのトラックバック一覧です: カリスマ議長:

« 再会 | トップページ | ウヨ曲折 »