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2005/10/17

阿Q戦犯

 「A級戦犯」。
 何回聞いてもヘンな言葉だ。
 極東軍事裁判の言い方をそのまま引っ張ってきたものなのだろうが「A級」の「A」をあえて翻訳しなかったところに、戦後社会の底意のようなものを感じる。いや、考えすぎと言われればその通りなんだろうけど。

 英語の"Class-A war criminals"という単語からは、「最高度に重い戦争犯罪人」というニュアンスがストレートに伝わってくる。
 また、その"Class-A war criminals"なる英単語を日本語に翻訳するにあたって、「第一級戦争犯罪人」というふうに、きちんとアタマから尻尾まで日本語化すれば、それはそれで言葉としての一貫性は確保できる。ミステリファンにおなじみの「第一級殺人罪」との照応関係からしても、訳語としては、「第一級戦犯」の方が自然だ。
 にもかかわらず、どうして「A級戦犯」などという生煮えの訳語が一般に通用しているのか。
 おそらく、訳語を採用した側の人々(ジャーナリストなのか法曹関係者なのか、それとも役人なのか、私は知らないが)が、「これは、外国から押し付けられた犯罪なのであって、オレらは納得してないぞ」というメッセージを残したかったからだと思う。
 潔くないよな。

 いずれにしても、「A級」という不徹底な半可英語を生殺しのまま残して、なおかつその曖昧な接頭辞を「戦犯」のアタマにつけた「A級戦犯」は、あまたある英和合体語(「インテリア畳」みたいな)がそうであるように、木に竹を接いだような、なんだか信用できない(←「ダン野村」参照)ムードの法律用語になってしまっている。
 まあ、狙い通りなのかもしれないが。

 「A級」には、「高度な」「優秀な」「Aランクの」という感じの、「良い」ニュアンスがある。
 と、「A級戦犯」は、俄然「優秀な戦犯」「良心的な戦犯」「高級な戦犯」「セレブな戦犯」という感じの「素敵な」響きを帯びてきてしまう。
 いいのか?
 トージョーは、ありゃセレブなのか? カリスマ戦犯か?

 もうひとつ音の響きの上で「A級」が「永久」とまぎらわしいこともちょっと問題かもしれない。
 なんというのか、「永久戦犯」という言葉の響きがムゴいわけです。
 死のうが灰になろうが、永久に絶対に、幾万年たっても許さないニダ、という感じの恨五百年な執念深さが、うちらの山紫水明の死生観にそぐわないわけです。
 でもって、「永久戦犯を合祀」なんて言われると、事情を知らない常民は、「もう死んだヒトなんだから、いいかげんに許してやれよ」
 と、そういうふうなジャッピーな感想を抱いたりするわけだ。良し悪しはともかく。

 ついでに言えば、「永久戦犯」という言葉の響きは、
「ん? 臨時戦犯というのがあるのか?」
「っていうか、普通の戦犯は暫定戦犯なのか?」
 みたいな誤解を生じる余地を残している点でも問題だと思う。

 で、提案。
 トージョーは阿Q戦犯と(ry

※上記エントリは、オダジマの誤解に基づくテキストでした。(ノ∀`)アチャー
以下にWikipediaの語釈を引用します。

「なお、A級のAとは、同条例の英文 Charter of the International Military Tribunal for the Far East において同条(イ)が (a) となる事に由来する単なる分類上の名称であり、罪の軽重を示す意味は含んでいない」

訂正 2005/10/17 19:53:14 (´・ω・`)ショボーン  
 

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コメント

A,B,Cという区分けは罪の重い順ではありません。
A:平和に反する罪(戦争指導者の罪)
B:戦争犯罪(戦時国際法違反)
C:人道に反する罪(ナチス犯罪。日本では訴追なし)

A級を「第一級」としなかったのは当然です。

知ってて話を転がしてたんなら、言わずもがなですが。

投稿: Inoue | 2005/10/17 19:11

>inoueさん
> A:平和に反する罪(戦争指導者の罪)

 ありゃりゃ、そうでしたか。
 書く前にググるべきですね。こういうことは。
 油断大敵。

 Aランクじゃなくて、Aクラス。
 とすると、A級じゃなくて、「A分類」ぐらいの方が意味は伝わりやすい気もしますが。
 いずれにしても、ご指摘ありがとうございました。

投稿: 小田嶋 | 2005/10/17 19:23

でもまあ、論旨には影響ないですよね。
なぜ「一類戦犯」とか「第一種戦犯」とかに訳されていないのか?っていう問題提起は依然としてできるわけで。

投稿: lovol | 2005/10/17 19:50

・・・・・・なお当時の巣鴨プリズン内では受刑者の健康管理のために自転車競争が月一回開かれていた。この競争で5連勝した東条がS級戦犯に昇格したことはあまり知られていない。

「戦後の競輪~闇に埋もれた歴史~」

投稿: 民明書房 | 2005/10/17 22:36

ええと、チョー・ヨンピルの歌で有名になった

> ハン五百年

は、あれは「およそ/約」五百年の意味です。もっともそれは歌詞の話であって、この場合は「恨五百年」でいいのだと思いますが。

ついでに、「恨」というのも「満たされない辛さ」のようなニュアンスなので、「♪恨み~ます~」というのとも違うところが、誤解が誤解を生む構造につながっている気がします。それも論旨には影響しないのですが・・・。

投稿: blue hills | 2005/10/17 23:03

最初は冗談で言ってるんだと思って読んでました。
小田島さんほどの人でも、けっこう基本的なこと知らない
んですね。
甲、乙という分類と同じってことは、ネットやってれば
けっこう拾える話だと思うんですが。日本の知識人って
ヤバイですね。
A級戦犯じゃ何のことか良く解らないですから、そのまま
『平和に対する犯罪者』と呼べばいいんですよ。
うさんくささ満点で笑えますから。

投稿: ぺ・ヨンジュン | 2005/10/17 23:29

GHQによる定義はあるんだろうけど、指導者で、社会的な影響力が強かったんだから、最高度に重い罪のような気がするね。
あと、国民の側からみて、いくさに負けた責任をとってもらえるのはA級の人以外にはいないんじゃないすか?

投稿: よし | 2005/10/18 01:21

 世間では、”A級戦犯”って用語は、「もっとも罪が重い」と同義なんです。主要球団の成績が悪いと、週刊誌が「A級戦犯はこいつだ」みたいな記事を書きますよね。それにいちいちツッコミ入れるのは、「役不足」とか「すべからく」にいちいち突っ込みいれるようなもので野暮ですから放置してるんですが、さすがに真正面からA級戦犯の用語法を云々されると、黙ってられなかったということなんです。
 ま、昔と違って、断片的な知識はネットでいくらでも仕入れられますから、こんなことを知っていても自慢にゃならないと自覚はしてます。

投稿: Inoue | 2005/10/18 12:18

>Inoue さま
納得です。論点勘違いして、すみませんでした。

投稿: よし | 2005/10/18 22:20

というか、「平和に対する罪って何よ?」の一言に尽きるわけで、A型戦犯(って言うのが正しい翻訳では?)は、事後法ででっち上げただけの罪です。ゆえに後に国内的にも名誉回復がなされ、国際的にも法的に赦免されています。だからそもそも現在では存在しないのです。それと靖国に祭られているのは、赦免以前に既に刑が執行された人たちで、事後法とはいえ罪は償っていることになるわけですから、法治国家の国民たるもの、「処刑されても罪は消えない」なんて寝言言ってはいけません。法秩序が崩壊してしまいます。
中国は法治国家ではなく人治国家であり、死者に鞭打つ歴史風俗を持つ国ですから、あの反応は理解できなくも無いですが、受け入れる必要はまったくありません。だから靖国問題について中国・韓国がとやかく言うのは「内政干渉」と「余計なお世話」以外の何者でもないわけです。

平和に対する罪ってのは、今まさに中国がチベットや東トルキスタンに行っている一方的な民族弾圧のことでしょう?

投稿: hiro | 2005/10/19 22:09

その件は以下の哲学者のブログを読んでね。よくまとまった論考になってるから。
http://d.hatena.ne.jp/charis/archive

>ゆえに後に国内的にも名誉回復がなされ、国際的にも法的に赦免されています。

サンフランシスコ講和条約読んだことありますか?

投稿: Inoue | 2005/10/19 22:21

inoueさん:
>>サンフランシスコ講和条約読んだことありますか?
 サンフランシスコ講和条約の原文をきちん
と読んだ事がありますか?日本語訳を読んで
判った気になるのは止めて下さいね。該当の
条約は英、仏、西の三ヶ国語で書かれたもの
のみが正式の条文なのですから。

 大体哲学者だろうがなんだろうが、的外れ
なものは的外れなのであって、肩書きが論考
の内容を補完するわけでは有りませんよ?

投稿: 別スレ6124 | 2005/10/19 23:12

 私は日文と英文しか読めませんが、仏も西も読めなくちゃいけないんでしょうか?
 サンフランシスコ条約第11条の解釈は、charisさんの論考ですでに論は尽くされてると思いますよ。それを踏まえたうえで異論があるなら、あちらのコメント欄で反論してみてはいかがでしょうか。

投稿: Inoue | 2005/10/19 23:48

ま、いずれにしても、戦争に負けて国を滅ぼしかける(って
ゆーか滅ぼした)っていう、国家国民にとって最大の馬鹿を
冒した無能力者どもを今更拝むっていう負け犬根性は、今
どき、どうよ。

投稿: b | 2005/10/20 02:17

↑の人さ、日本は確かに負けたけどさ、それまで植民地だった東南アジアから欧米追っ払ったって実績もあるわけでさ、
アンタの言ってることのほうがよほど負け犬根性に見えるよ。

だいたい平和に対する罪なんて存在しないわけよ。
現憲法の下で戦争起こしたらあるかもしれないけど当時は。
勝とうが負けようが戦争をやったこと自体を罪にして軍人吊るし上げてる国って日本くらいじゃないの?

投稿: L | 2005/10/21 14:22

 Lさんは、まず国際法のお勉強をしてから発言した方がいいんじゃないのかなあ。戦争が罪であるかどうかなんて話は、もう何百年も議論されてきて、その歴史的画期が、パリ不戦条約であり、東京裁判とニュールンベルク裁判なわけで。
「NHK人間講座 いま平和とは」
なんて本はたった588円で買えて1日で読める。

>勝とうが負けようが戦争をやったこと自体を罪にして軍人吊るし上げてる国って日本くらいじゃないの?

ドイツはどうなってるのか調べて見たら?

投稿: Inoue | 2005/10/22 09:03

日本が戦争始めたときに戦争それ自体を罪に問う国際法があったんですか?
あったんなら完全に私の勘違いです。すいません。

投稿: L | 2005/10/22 15:43

 「勝者の裁きである」「戦争の個人責任を問うのは事後法である」「責任追及が勝者と敗者でダブスタだ」という問題を差し引いても、戦争裁判は積極的な評価に値します。なぜそうなのかは推薦した本を読んでください。100ページもない。

投稿: Inoue | 2005/10/22 19:51

事後法を認めたら、それは法治国家とはいえんわな。
だからどれだけ評価に値しようと、棄てざるを得ない。
たかが一介の哲学者の一時的な論を持って「議論し尽くされている」などと言い切れる論理性も首をひねらざるを得ないが、評価は時代時代の人々によって決まるもので、答えなんて存在しないよ。
死者を区別しないという美徳はそれはそれで評価に値すると思うが、その点ははどう考えるの?
死者がどんな責任を取れるというの?
それってどんな理屈をひねろうが結局のところ、スケープゴートを求めるさもしい人間性ではないのか?

投稿: hiro | 2005/10/23 03:27

ですからInoueさん、東京裁判以前に「平和に対する罪」なんて法はどこにもありませんよね?議論の話じゃなくて。
勝者が敗者を裁いて責任者に腹切らせるのは当たり前だろうし評価するのも勝手ですけど、負けた国の国民が勝者(この場合中韓なんで勝者じゃないですが)と一緒になって責任者を吊るし上げる図は異常でしょ。
戦争犯罪やったわけでもなくただ戦争をやったというだけで処罰されたわけで、言ってみれば日本を代表して生贄になったようなもんですよ。
で、ドイツがなんだって言いたいの?
戦争自体には謝罪も保障もしてない国と日本の状況が同じだとでも?

投稿: L | 2005/10/23 07:42

 だから何度も書いているでしょうが。

 WW2の戦争裁判は、「勝者の裁判」であり、「事後立法による裁き」であり、「戦勝国と敗戦国でダブスタ」であると。
 素人の戦争裁判批判はいつも、上記の3つの「キズ」を言い立てるだけで、戦争裁判の積極的側面に一切眼をつぶっている。これが果たして建設的な態度でしょうかね。
 どういう積極的側面があるかは、コメント欄で書くにはヘビーすぎるし、私が解説するよりも、はるかにましな国際法の本がいくらでもありますので、それをごらんください。

 「事後立法云々」と言い立てて、東京裁判批判を繰り返すのは、渡部昇一のロッキード裁判批判みたいなもので、自分の無知をさらけだしてるだけだとなぜ気づかないんですかね。

投稿: Inoue | 2005/10/23 11:37

>勝とうが負けようが戦争をやったこと自体を罪にして軍人吊るし上げてる国って日本くらいじゃないの?

>で、ドイツがなんだって言いたいの?戦争自体には謝罪も保障もしてない国と日本の状況が同じだとでも?

 発言が矛盾していることにお気づきでない?
 最初の発言では「個人責任の追求をしている国は被日本だけ」と書いていたのに、私がドイツの例を持ち出したら、今度は「国が賠償、謝罪していない」と言い出す。

投稿: Inoue | 2005/10/23 12:05

実際のところ、戦争裁判が積極的な評価に値すること自体は、理性的には異論のないところだろうと思います。

ただ、だからと言って、それが中韓に対して追従する理由にはならないというだけの話でしょう。

戦争裁判の話と愛国心の話は別次元の問題であって、一緒に論じると途端におかしくなります。平和を願う心と国を大事に思う気持ちが窮極的には背反するとしても、それはそういうものだと思いますが。

投稿: take | 2005/10/24 04:46

どう脳内変換したのか知らんけど
>「個人責任の追求をしている国は被日本だけ」
なんて書いた覚えないんで。
「戦争をやったこと自体」って書いてるんで。
まあいいけど別に。

投稿: L | 2005/10/24 06:36

拙い文章ですが、「なぜ国家犯罪の個人責任を認めなくてはならないのか」を書いてみました。小田嶋さんのブログを汚し続けるのも気がとがめるもので。
http://inoue0.exblog.jp/

投稿: Inoue | 2005/10/24 08:25

人のブログのコメント欄で、さんざん挑発的なことを書いて、あげくに自サイトの宣伝ですか。

投稿: aaa | 2005/10/25 13:06

それじゃ、「人のコメント欄」を延々と自説で埋め尽くすことが、誠実な態度ってことですか?

投稿: Inoue | 2005/10/26 09:20

「国家という抽象概念を罰しても意味無いから個人を罰する」
「国家に罰を課す(賠償)と遺恨が残るから個人に代替させる」
前者については一理あるような気がする。でも後者は?だなあ。実際、アメリカは日本から産業基盤を全部剥奪して、農業国にするつもりだったらしいし。その方針が転換するのは冷戦という全くの外的要因なんだから、極東裁判がベルサイユ体制より優れているとは言いがたい気が。あと、論旨と靖国問題とは全く関係ないですな。

投稿: Hukurou | 2005/10/28 21:02

国際法ってどうやら無条件に守らなければならないもののようですね。日本が戦争始めたときに戦争それ自体を罪に問う国際法があったとして、それを議論した欧米諸国はアフリカやアジア、中南米を植民地として蚕食していましたよね。そのような欧米諸国の重大犯罪すら裁く事の出来ない国際法により日本が裁かれた事を肯定的に評価する根拠ってあるんでしょうか。結局二枚舌の勝利とでも言うことなのでしょうか。日本は植民地にはならなかった訳ですが、植民地として過酷な収奪を受け、今でさえその後遺症の癒えない国々の方々に、その国際法とやらについて聞いてみたいですね。植民統治の積極的側面、肯定的側面とかもね。

>それじゃ、「人のコメント欄」を延々と自説で埋め尽くすことが、誠実な態度ってことですか?

「自分の無知をさらけだしてるだけだとなぜ気づかないんですかね。」などと相手を攻撃的に批判する形を取りながら自説を滔々と自慢した揚げ句、何を今さらという感じですね。

投稿: おっぽ | 2005/10/30 22:56

べつにInoueさんの文章が無知とも思わないし、おかしいとも思わないし、的外れとも思わないけどね。

これはこれで納得するし、ひとつの物の見方じゃないですか? それを一所懸命に理屈で批判しても仕方ないのでは。

実際、僕はInoueさんの意見に賛成じゃないですが、でも言ってることは言ってることとして、納得できます。

投稿: m | 2005/11/02 23:03

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受信: 2005/10/18 15:25

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