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とあるブログで見かけた記事なんですが、すごいですね。これ。
■「反進化論」米で台頭 渡辺久義・京大名誉教授に聞く@産経web
文科系の学者さんの中には、時々、自分の専門分野以外の学問について平気で大胆な仮説をカマしてしまうヒトがいます。困ったものです。
たとえば、電気工学あたりの学者さんが法哲学だとかについて自説を開陳している場面に出くわすことは、まずあり得ません。が、一方、文学部の教授さんが医学やら地球物理学に堂々口を出しているシーンを見つけることは、そんなに難しくなかったりします。不思議です。
リンクを辿っているうちに、この先生が「世界日報」(←統一協会の機関誌みたいなものでしたよね?)に寄稿した記事を紹介しているサイトを発見しました。
http://blackshadow.seesaa.net/article/4226935.html
世界日報。なるほど。ID(インテリジェントデザイン)だなどと、新しげな言葉を使っていますが、主張の内容そのものは、私が30年前にワセダの原理研に受けたオルグとほぼ一緒です。
……ちなみに、オルグは、こんな感じでした。
学部前広場でぶらぶらしていると、いきなり声をかけられる。
「キミ、一年生?」
「……はい」
「ちょっとアンケートなんだけど、いいかな?」
アンケートは、全体として毒にもクスリにもならないテのものなのだが、そのうちにいくつか、世界観やら宗教観を問う質問項目が潜んでいる。ここがミソ。
「未知の世界や、真理に関心がありますか」
とか。
「えーと、この未知とか、真理というのは、女の子の名前ですか?」
と、まぜっかえしてみる。
「いえ。違います」
ニコリともしない。ん? この人たちは……と、ここではじめてピンと来る。そう。原理だよ原理。原理は笑わない。っていうより、いつでも同じ原理顔という表情をうかべている。
適当にあしらっているつもりなのだが、いつしかラウンジに引っ張って行かれている。若気の至り。自信過剰の報い。
当然、ラウンジは原理のスクツだ。
「進化論を肯定するということは、あなたは、生物や自然が偶然の産物だと考えているわけですね」
「人類が猿から進化したなんてことを本当に信じられるのですか」
数人の男女に囲まれて質問責め。
「じゃあ、仮に原子というものがあるんだとしてですよ。それが集まって分子になります。で、その分子が集まって細胞を形成して、細胞の集合が人間になるわけですよね。そこまではいい。でも、だとすると、原子の目的は何です?」
「どうして分子は細胞になったんですか?」
「原子は、何のために集まって何千億分の一の確率を超えて、人間を形作ったのでしょう。答えられますか?」
「そこに、神の意志を感じることは不自然でしょうか」
……これは、やられてみるとけっこうキツい。
大勢を相手の議論でやりこめられない唯一の方法は、マジで相手にしないことなわけなのだが、そういうことを一年生はまだ知らない。
「んー。わかりません」
という、この簡単なセリフがなかなか言えない。自分が質問に答えられないことを認めるのは、20歳前の小生意気な小僧には、非常にハードルの高い作業なのでした。それでも最後には「わかりません」と言わなければならない。でないと、質問は一生続く。で、答に詰まった時に
「ほら。答えられないでしょう? ということは、どこかに統一的な真理があるということをキミは認めたことになるんですよ。違いますか?」
ぐらいな決めつけを食らうことになる。
苦しい。とても苦しい。
結局、3時間ぐらい責め続けられて、自分の無知と論理性の欠如を白状することで、ようやく解放される。
いやな敗北感。
でも、論破できない相手(原理を論破することは不可能。サルに四則演算を教えることも)に対しては、白旗を揚げるほかに有効な対処法が無いわけで、この場合、冷笑を浴びながら帰ってきた態度は正解だったのだ、と日記にはそう書いておこう。
こういう場面で撤退できない学生は、原理にハマるか、革マルに引きずり込まれるか、民青につけ込まれるか、でなければ東洋思想(S価学会)あたりに足を取られてオルグ三昧の学生生活を送ることになる。
ん? オレは、すべての論敵を論破し去ったぞ、と?
……すごいですね。
こういうヒトはスルー。
負けるが勝ち。2ちゃんねるを相手に喧嘩を売ったり、コメント欄にマジ切れしたりせず、静かに尾てい骨をくるくる巻く。
大人の智恵。
不死身の逃げ腰。
しつこいか?
わかったよ。もう黙る。人権に配慮して、永久謝罪、と。
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コメント
デーブ・スペクターが昔テレビで言っていたけれど、無感情な原理な人々を表現する英語があるんですよね。いわゆる原理顔に関して。何て言ったっけかな~
時々CBSドキュメントとかでID問題の番組とかやってますけれど、あちらはもう洒落になんない状況に陥りつつあるんですよね。日本もああならなければ良いけれど。
投稿: えいじ | 2005/10/02 17:24
えいじさん
>無感情で原理な人々を表現する英語
Moonyじゃなかったですかね?
文鮮明の「文」が英語でMoonなのと、「月」(←同じく月の派生語であるlunathicには狂気の意味がある)「夢見心地の」「ぼんやりした」をかけたニュアンスがあるんだと思います。
はるか昔、この言葉をネタに「ウルトラムーニー」関連の原稿(おい、オレの長男は超絶文鮮明主義者かよ。みたいな)を書いた記憶があります(笑)。
投稿: 小田嶋 | 2005/10/02 17:31
「弱者」のコメント欄に書いたことの応用ですが、
日本人って基本的に、相手のルールに乗った上での勝利が
美学だと思ってません?国際社会でも国内問題でも。
なんで相手のMy ruleに従わなきゃならんのだ、
と悟った人が日本ではツワモノになります。
投稿: 道路強者 | 2005/10/02 18:10
「進化論によると人間の祖先はサルだ」という記述が何箇所も出てくるのですが、それって、進化論批判者がよく間違えるトコです。ああ、恥ずかしい。
私は街頭の「ものみの塔」の布教活動で、やっぱり、反進化論を唱えられましたよ。進化論は熱力学に反しているから矛盾がするという、(いっけん)高級な批判でした。これも、熱力学を誤解しているだけです。
投稿: Inoue | 2005/10/02 19:38
こまったもんだアメリカは……なんて思いますが、
日本だって、
「このままじゃ地獄に堕ちる」などと、堂々と脅迫する占い師やら
スピリチュアル・カウンセラーとかいう新種のイタコやらを
看板にした番組を放映したり、
超能力者に未解決事件の捜査をテレビでさせてみたり、
ちょっとどうかしてますよね。
オカルト詐欺師にだまされるのと、
宗教原理主義者に洗脳されるのは、どっちがマシなんでしょう?
投稿: スノーケラー | 2005/10/02 20:34
>moony
ちょっと違っていてMoonyまたはMoonieらしいです。
投稿: 佐藤秀 | 2005/10/02 21:01
>スノーケラーさま
おお、たしかに。辞書にはmoonieで載ってますね。ひとつりこうになりました。
ご指摘ありがとうございます。
投稿: 小田嶋 | 2005/10/02 22:05
暴力はいかんかもしれないのは、重々承知していますが、昔同じような笑わない人に論議を吹っかけられて、しまいに面倒になり殴り倒して逃げたことがあります。若気のいたり、反省してます。ちなみに私の知り合いの女性は股間を蹴り上げたそうです。恥ずかしいです。暴力を振るうのは本当に恥ずかしいです。スカッとするけど。
投稿: カツ丼 | 2005/10/02 22:35
はじめまして。ちょくちょく読ませていただいてます。
個人的な経験ですが、原理の兄ちゃんの勧誘に引っかかった時に、聖書の話から突っ込んだことがあるのですが、その時に、彼は、新約聖書も旧約聖書も読んでないと白状しました。
彼らは、建前では、キリスト教系ですから、大きな矛盾でしたね(苦笑)
多分、ご存知でしょうけど、そのほかに、彼らの話と別方向の概念から突っ込むと言う手もあります。例えば、死に対する感覚の違いとか。
投稿: いった | 2005/10/02 23:59
ダーウィニズム批判者がダーウィンを読んでないんだからシャレにならないです。ダーウィンの「種の起源」は、優れた訳本が文庫本で出てます。
それを読むと、ダーウィニズムとして巷間流布している言説の大半が後から付け加わったもので、ダーウィンの学説とは似て非なるものと言わざるをえない。
投稿: Inoue | 2005/10/03 09:52