光る海
テレビから、「♪光る海光る大空……」と、SMAPの歌う「エイトマンのテーマ」(←フレッツ光のCMソングになっている)が聞こえてくる。
このメロディーを聴く度に強い違和感を覚える。
私をして違和感を抱かしめる第一の理由は、おそらくアレンジにある。ハーモニーの付け方というのか、コード進行が異様で、モト歌(←軍歌ですな、構造としては)と似ても似つかない出来上がりになっているわけだ。で、このサウンドが当方の音楽的潔癖(っていうか、幼年期の記憶という頑迷な王国)を傷つけてやまない。
だから、この歌が聞こえてくると、「SMAP」も終わりだな、と、必ずそう感じる。
いや、たいした根拠はないのだが、エリッククラプトンに作曲を依頼(←ソングライティングをお願いするにふさわしい相手ではありません。事実、つまらん歌だし)したり、そのまた訳詞を竹内まりやにやらせたり、という無意味な王様ぶりをはじめとして、このエイトマンにおける小生意気なコード解釈といい、メンバー全員の奇妙なポーズ(斜め上30度上方目線。特にキムタクの座り方が「オレって脚長いだろ」式の昔の日活映画っぽくてキモ)といい、「世界にひとつだけの花」からこっち、やることなすことのすべてが微妙にスベってきていると思う。
「世界にひとつだけの花」については、出典は忘れてしまったが、どこかのホームページの書き手が、「競争原理の代替品として個性主義を持ってくるのは見当違いだぞ」という主旨の突っ込みを入れていて、「なるほど」と思いました。って、それはまた別の話ですねえ。ええ、話がどんどんズレています。
エイトマンですが、これについての思いもちょっと複雑で到底順序立てて話をすることは不可能な感じがするので、以下箇条書きにします。
- この歌はなぜか丸暗記している。小学校4年生の頃だったと思うが、繰り返し聴いたレコードだったからだな。
- 当時、私自身は「レコードを買う」という習慣を持っていなかった。というよりも、はじめてレコードプレイヤーを手に入れたのが、もう少し後のことだった。
- エイトマンのレコードを買ったのは、友人A。3年ほど前に二十年の闘病の末、死んでしまった。もう一人の友人、Hも二十年ほど前に死亡している(←地下鉄)。つまり当時ツルんで遊んでいた3人組のうちの二人が、既に故人となっているわけで、それゆえ、エイトマンを聴くと「昭和は遠くなりにけり」という感慨の中にどうしても引き込まれるわけです。ええ。
- エイトマンの主題歌は、笑点音頭、帰ってきたヨッパライ、などと共に当時偏愛した歌のひとつだった。
- 調べてみると、作詞は前田武彦。おお。この頃、テレビで共産党支持者であることをカミングアウトして干されたヘンなオヤジだった。私が共産主義という思想に関心を抱いた端緒は、おそらくこの事件(前田武彦パージ事件)にある。
- さてしかしエイトマン主題歌は、節まわし、情緒性、湿度ともにまるっきりの軍歌だったりする。
- おそらく、前田武彦氏の心性の根は軍歌にあった。というよりも、あの世代の左翼は、なんというのか、非常に軍人じみた人々だったわけで、結局のところ当時の右翼と左翼は、同じ木の幹から枝分かれした別の枝みたいによく似ていたのだと思う。
- で、歌っている歌手はと言えば、克美しげるです。後に殺人でタイーホされる。この時もびっくりした。ああ、エイトマンの克美さんが……と、私の中の幼年期がまたひとつ暗くなった瞬間でしたね。
- レコードのB面は、「北京の55日」。洋物映画の主題歌に歌詞をつけたものだったが、これまた360度軍歌ノリの歌だった。
- 20代の頃、ふと思い立って、映画「北京の55日」をレンタルビデオ屋で借りて観たことがあった。もしかしたら、当時連載記事を執筆していたビデオ批評のコーナー(今は亡き伝説の低原稿料雑誌「シティーロード」でやってました)のために観たのかもしれない。いや、ひどい映画だった。
- <映画の言わんとしていることは、
- 非キリスト教国って、要するに野蛮国だよな。
- 東洋人ってのはしつけにくい家畜だわな。
- 日本人は優秀だね。牧羊犬としては。
- 非キリスト教国って、要するに野蛮国だよな。
- という感じ。伊丹十三が出てます。パシリ軍人。ハマリ役だったな。
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コメント
「エイトマン」作曲の萩原哲章氏は「スーダラ節」をはじめとするクレージーキャッツ歌謡の作者として知られ、元はジャズ畑の方です。
「エイトマン」原曲が軍歌をイメージさせるのは、行進曲=軍歌なのと“パッパパラパパッパパッパ”という威勢のいいブラスアレンジによるものでしょうね。
だから、間奏にスチャラカなお囃子を入れて、青島幸男に詞を書かせれば、植木等が歌っていてもなんら違和感のない曲になる気がします。
余談ですが、「シティロード」は社員の給与も低く、バブル絶頂期だったというのに新入社員の私は月給14万固定(残業手当なし)でした。1年で辞めましたけど(笑)。
投稿: かくた | 2005/05/14 19:06
おお、シティーロードの社員さんでしたか。
そうでしt。社員さんの貧乏っぷりが、著者の原稿料交渉をブロックしていました。
取材の交通費さえ請求しにくかったことを覚えています。
良い雑誌でしたけど……バブル前に息切れしましたよね。
投稿: 小田嶋 | 2005/05/14 22:12
エイトマン! 克美しげる!
私もまだそらで歌えます。光る海光る大空光る大地・・
スマップどうでもいいですが山上たつひこを連想します。
そらでならもうひとつ初代オバ Qの歌も。1km8km50km・・
ええっ、オダジマさんシティロードに。
愛読者でした、でもどの頁にいらっしゃったのでしょう。
ほんとに昔のことですね。西新宿にあったおぼえあり。
私ミュージシャンですが、LP を自費出版(リキテックスで
手描き)した時、ちゃんと応対してくれて載せてくれて嬉しかったのを覚えています。
投稿: A101 | 2005/05/15 09:18
オオ、書式が変わって非常に読みやすくなりました。老眼鏡の身にとっては、非常に嬉しいことです。小さなフォントでズラズラと空白もなく書き連ねられると、それだけで読む意欲を失ってしまいます。ブログに限りませんが、内容もさることながら、如何に読みやすく書くかが、読者を集める重要なポイントだと思います。今後もこのスタイルを維持していただくことを切望します。
投稿: ハマの住人 | 2005/05/15 12:53
あの曲ってオロナミンCのCMでかかっていて、そこに巨人の選手かなんかが出てたんで、巨人関係の歌かと誤解してました。
というか、それとは別の歌でしょうか。でも私の耳には同じように聞こえます。
投稿: Mac隊長 m(_ _)m | 2005/05/15 17:12
丸美屋の「のりたま」にエイトマンシールが入っていたくらいですから、オロナミンCのCFソングというのはありえないですね。別の歌ではないでしょうか? ところで前から気になっていたのですが、「おだじまん」って「磯じまん」のパロディーですか? この間夢の中で「お~だ、おだ、おだじまん 文字の佃煮おだじまん」と歌ってました。
投稿: うp男 | 2005/05/15 17:26
>A101さん。
Q太郎の歌は「8キロ10キロ50キロ」だったと思います。空から降りたら犬がいた。
ですね。
>ハマの住人さん。
私自身、老眼がけっこう進行していて、自分のblogの読みにくさにちょっと閉口しておりました。なのにデザインの手直しを面倒がっていわけなのですが、昨日になって、いざ取り組んでみると、たった15分の作業でした。
投稿: 小田嶋 | 2005/05/15 20:06
>うp男さん。
おだじまんは、「おだ」と「自慢」の合成語です。
おだ:『―をあげる』勝手な気炎をあげる(岩波国語辞典)
じまん【自慢】:〔名・ス他〕自分のこと、自分に関係の深いものを、自分でほめ人に誇ること。
……と、まあ、個人ホームページなんてものは、手前勝手な気炎と自慢ですよ、ぐらいな含意です。
ところで、この「おだじまん」というタイトルは、私よりも前に、小田島久恵さんという方が、ロッキングオンという音楽雑誌の中で使っていた(そういうタイトルの4コマ漫画のコーナーを連載していた)のだそうです。
ホームページを開設して1年ぐらいたったころ、読者の方からメールをいただいてこのことを知って以来、いつかごあいさつをせねばと思いつつ、いまだに放置したままです。
困ったことです。
投稿: 小田嶋 | 2005/05/15 20:31
ストレートな解釈でよかったのですね。北本通りに磯じまんの看板(営業所かな)があったので、てっきり磯じまんかと思いました。是非、日本運国党を立ち上げて初代総裁になってください。遅くなりましたが、文庫版「人はなぜ学歴にこだわるのか。」を購入、読了しました。小田嶋ワールドにはまりそうです。
投稿: うp男 | 2005/05/15 23:58
そういえば克美しげるが「北京の55日」をカバーして歌ってましたね。それがB面に入っていたんだ! オリジナルはブラザースフォーでしたね。なつかしい。
投稿: うp男 | 2005/05/16 00:47
エイトマンは、原辰則(新人)の応援ソングでした。
背番号8=エイトマン
という具合。
アレンジは若干変えてあったかも。
マエタケも出てきて、何故かはしゃいでました。
投稿: 元巨人ファン | 2005/05/16 16:34
SMAP版の異和感のもうひとつの理由は「♪は~し~れ~エイトマ~ン」のところに行かないもどかしさではないでしょうか。
あと、ぼくは聞きはじめて何ヶ月間か「なぜ、このCMでエイトマンの歌をやるのだろう」と不思議に思ってました。「ヒ~カリ海」なら気付いたのに。
CMの前に〈見えない足〉で走るエイトマンは、「のりたま」を抱えていましたが、再放送で「ミルトン」提供になった時には、しっかりミルトンを抱えていました。
投稿: のぶ | 2005/05/18 17:16
ええ。そして小田島久恵さんは俺の高校時代の絵画部の先輩です。
困ったことです。世間はもう少し広くないと。
投稿: メルヘンひじきごはん | 2006/04/21 08:04