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2004/11/06

法事

 8時半に赤羽を出発。案の定の渋滞。そりゃそうだろう。東京中の粗忽者が紅葉狩り目的で中央高速に結集してるわけなんだから。
 正午より八王子の霊園にて法要。なんたらかんたらのお道具。いがらっぽい煙。硬い革靴と窮屈な黒服。初対面の坊主の読経。秋風。故人の面影? うまく思い出せないな。だって17回忌だぜ。
 午後1時。高尾にある「う○い竹亭」という料理屋で昼食。
 懐石。懐に石だと。何の比喩だろう。鬱のことか? それとも秘めたる殺意ぐらいだろうか。
 無駄に手のかかった工芸品みたいな料理。微妙な味。煩雑な説明。仕込みから数えると4日間かけたという黒豆。確かに柔らかいが、それがどうしたというのだ? グリコのプッチンプリンはもっと柔らかいぞ。甘過ぎないぎりぎりの甘みの奥に、かすかにゆらめいているほろ苦さが上品であることは了解したが、当方には「そうですか」ぐらいの感想しか浮かばない。プッチンプリンの方が好きだな。オレは。
 壬生菜、丹波黒豆、佐島の鯛と、食材のいちいちが出自を誇ってこちらに平伏を求める。
 へー、丹波ですか、とどうしてオレが豆なんかにお世辞を言わなければならないんだ?
 松茸と鱧の土瓶蒸し。なるほどね、こういうものを繊細な味というのですか。ええ、上品ですよね。あたしは好みませんが。
 不味いといっているのではない。
 ただ、平目の菊花鮨みたいな、技巧に走った美術品みたいな料理を出されると、なんだかこちらの美的センスを試されているようで居心地がわるいのだよ。
 もみじの葉で飾った器。ステドラーの消しゴムみたいな歯ざわりの鶉の山椒焼き。どんぶり一杯ほどの砕氷の上でシナをつくる鯛の刺身。
 そして、演出。
 苔むした水車。錦鯉。水辺の石榴。アンシンメトリーな石灯籠。淡く紅葉した楓の葉と、その向こうに広がるギザギザの空。
 おそらく、動物に詳しい人間よりは植物の名前をたくさん知っている男の方が、文化人としてポイントが高い。
 ジャパネスク趣味は私の痛いところをつく。
 だって私は理科第二分野の中で、花の名前だとかを覚えるのが大嫌いな生徒だったから。キョウチクトウ、ガクアジサイ、シンビジューム。知らないよ。名前を並べてみただけさ。咲く季節も知らない。誰かに花束を貰ったら、見てないところで捨てる心遣いは持っているが、ウチにはもって帰らないな。だって、花を好むやつって毛虫と一緒じゃん。
 それにしても、相棒よ。信じられるか? 二時間半だぞ二時間半。冗談みたいな柿の白和え(たぶんアメリカ人なら激怒するだろうな。ホワットイズディスタイニーテイストレスキューブ?)からはじまった食事が、香の物でフィニッシュするまでの時間が実に150分だ。
 どんなに美味いものであっても、そんなにまでもったいぶられたんでは、私は、冷静さを失って味を感じることができない。
 正直な話、こういう席では牛丼か何かをどーんと出してもらうのが一番ありがたい。カレーライスならさらに結構だ。故人もきっとよろこんでくれると思う。もってまわったことのきらいな人だったから。
 
 午後8時前に帰宅。
 PCを立ち上げて、blogをチェックする。
 何もかもが急速に面倒くさくなってくる。
 おい、君らはオレに何をしてほしいんだ?
 会員制レストランのテーブルに犬のウンコか何かをぶちまければ、度胸のある野郎だと認めてくれるとか、そういう条件の取引きなのか、これは。
 オレのblogはいつから中坊のチキンレース会場になっちまったんだ?
 いいか、相棒
 オレたちは、殴った方が負けというゲームをやっている。
 紳助もそれで負けた。
 わかるだろ?
 殴って勝つためには、アメリカとイラクほどの戦力差があってもまだ足りない。
 えんがちょには鍵が閉められないし、なめくじには防衛線がない。
 というよりも、オレらが闘っているこの砂漠の消耗戦には、そもそも勝利者がいない
 そういう時代なんだよ
 だから、オレは我慢をする。
 皮肉やあてこすりを散りばめ
 パラドクスを弄び、イヤミを並べ立てながら
 それでも手は下さない。
 揚げ足を取り、減らず口を叩き、面当ての捨て台詞を推敲しつつ、
 そうしながら、顔にはいつでも笑みをうかべていなければならない。
 そうだとも、いやな稼業だよ
 でも、続けるしかないんだ
 ほかに芸もないわけなんだから

 オレはもう寝るよ
 あんたも休んだ方がいい。
 中年男が詩を書くようになったらおしまいは近い。
 

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コメント

俺は小田嶋さんの相棒じゃないけど、なんかこの文章好きだ。

 そうだとも、いやな稼業だよ
 でも、続けるしかないんだ
 ほかに芸もないわけなんだから

ほかに芸がないとは思えないけど。
「でも、続けるしかないんだ」って、なんかそれいいですよ。うまく言えんけどね。

たぶん一芸すらない僕のような人間から見ると眩しいんだと思いますよ。こちとら中坊ならぬ中年坊ですが。

http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/detail/-/B000002KLN/

投稿: さいもん@中年坊 | 2004/11/07 02:05

>さいもんさん

リンク先の「One Tric Pony:ワントリックポニー」(一芸馬?)はポールサイモンが出来ないこと(映画制作)に手を出して墓穴を掘った時のアルバムですね。私も買いましたよ。
世間的には失敗作とされる場合が多いようですが、いくつか良い歌があります。
 失敗する勇気を持たないクリエイターはダメだ、と、そういう含意を読んでおくことにします。
 でも、失敗の原因は創造的な意図の空回りであるべきで、誰もが予想した自爆であってはいけないと思います。

投稿: 小田嶋 | 2004/11/07 11:34

あ、ほんとに?聴いてらっしゃったんですか。
僕は大好きなアルバムで、高校生の頃からいまだに聴いています。

うーん、でもそういう含意は全然なくて。
そんなの思いつくほど僕は頭よくなくて。
世間がどういおうが僕はこのアルバムを失敗作だとは思っていなくて。

> でも、続けるしかないんだ
> ほかに芸もないわけなんだから

僕が連想したのはこれだけです。映画はプロデューサー役のルー・リードがよかったです。

投稿: さいもん | 2004/11/07 12:08

 小田嶋さまの親族はまだかなり律儀に親戚づきあいなどしているのですね。私のまわりでは、正月の宴会が消滅し、彼岸のお参りは、各自が好き勝手に墓場に行くだけとなり、法事は坊主に経をあげてもらって手近な料亭でちょっとばかり宴会をやるだけになっています。法事費用が安くつくというので仏教から神道に宗旨替えをした家もあります。神官への謝礼は坊主よりも一桁安いのです。
 何か行事があるたびに、いちいち親戚近所一同に宛名を手書きしてお知らせを出し、お祝いをもらったら半返しをし、家でもてなすために女たちは前の日から用意をして半分以上食べ残しされる料理をして1日を潰し、まったくろくなことがない。
 今年の27回忌じゃ、泥酔した叔父に絡まれてひどい目に会いました。シラフの人は議論すると酔った人には絶対にかないません。

 親戚といっても親子兄弟以外では相互扶助は期待できないんだから、もう付き合う理由もないんですね。浮いた費用は生保にでもつぎ込んだ方がずっとましです。あれこそまさに相互扶助です。

投稿: 井上 晃宏 | 2004/11/07 22:02

>小田嶋さまの親族はまだかなり律儀に親戚づきあいなどしているのですね。 

 まあ、そうはいっても私の側と嫁さんの関係で双方あわせて、法事が3年に一遍ぐらいです。正月とかは徒歩5分の実家には顔を出しますが、ほかはパスです。葬式もオジオバ従兄弟まで、結婚式は出ません。
 仮に私が突然死したとして、集まる親戚は40人程度ではないでしょうか。
 で、直木賞受賞パーティーとかをやると、親戚が100人ぐらい来る、と。
 獲りたくないですね(笑)。

投稿: 小田嶋 | 2004/11/07 23:41

>映画はプロデューサー役のルー・リードがよかったです。

 げげ。ルー先生が出ておられたのですか。
 うーん、それは聞き捨てならない情報です。
 私はルーさんの不思議なヴィヴラートと英語の発音(←吐き捨てるような)を偏愛する者で、'80年頃までのアルバムは全部持っていたりします。
 ツタヤでレンタルできるようなら見てみようかな。
 DVD化されているようなら、買いですね。
 
 

投稿: 小田嶋 | 2004/11/07 23:53

キミたちは作者が居直ったくらいで、毒コメントを吐かなくなるのか。

なんて毒づく人がいなくてよかった。

こんな雰囲気がいいですね。

投稿: のぶ | 2004/11/08 13:27

http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/detail/-/6300268217/

DVDはなく、上記のVHSも日本のアマゾンでは品切れでした。

ルー先生は完全に悪役に徹してまして、なかなか良いですよ。

ルー先生のアルバムとしては「ニューヨーク」が好きでした。

投稿: さいもん | 2004/11/08 21:24

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受信: 2005/05/14 13:39

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