記事全文2
以前どこかのタイミングでお約束したことなので、島田紳助事件について、「Yomiuri Weekly」誌(11/21日号:11/7日発売)に掲載した記事の全文をアップします。私が約束をやぶって、そのことで浦和レッズが優勝を逃したりしたら一大事ですから。とにかく、優勝決定までは正しい人間であろうと(ry
先週の当欄でちょっと触れた島田紳助の暴力事件について、この一週間で事態が進展したので、現時点で判明している事実関係と論点について、以下、ざっと述べておくことにする。
1.紳助は会見で号泣。「100パーセント僕が悪い」と、全面的に謝罪。ただし、事実関係については、「平手で一発だけ」とするなど、被害者の言い分(「拳固で数発&顔面に唾」)と対立。
2.被害女性は態度を硬化。示談に応じる構えはなく、正式に告訴。
3.テレビではタレント仲間から紳助擁護の意見が多数流される。
4.被害女性について「普通のマネージャーとは違う態度の人らしい」(おすぎ)。「この女性がやっている事は『犯罪的行為』である」(松尾貴史)「日本古来の"なぁなぁ"の文化が理解できない人」(ラサール石井)など、メディアを通じて否定的な論評が続出。
……うーん。ひどい。
ぜひ強調しておきたいのは、被害女性の態度は、この際、問題の本質とはあんまり関係がないということだ。第一、彼女が生意気だったかどうかなんてことは、密室での事件である以上、他人にはわかりっこないではないか。
とすれば、論点は
A.非のない女性を殴るのは言語道断。
B.失礼な女であっても殴れば暴行。
ということに尽きる。つまり「状況がどうであれ暴力はいけません」 という単純な話なのだな、これは。であるから、一方において、裁判の帰趨はともかくとして、紳助が真摯に謝罪すれば解決に向かう話でもある。
むしろ深刻なのは、被害女性をめぐる、業界をあげてのセカンドレイプ(被害者いじめ)の方だ。「芸人の世界ではこの程度のことはよくあること」「マネージャーなら、芸人のわがままは容認すべき」「帰国子女は空気を読めないから困る」という、紳助擁護派の人々が展開しているこれらの論理は、ある意味で、紳助の暴力以上に被害者を傷つけている。というのも、上記の論点は、その内に「組織の中にいる人間は上位者の横暴を甘受すべきだ」という空恐ろしい同調化圧力(っていうか、奴隷根性だよな)を含んでいるからだ。
ついでに言うなら、「形式的な法律よりも、その場の雰囲気の方が大切だ」という、「"なぁなぁ"の文化」が野球界の裏金体質を助長し、ホークス球団前社長のセクハラを容認し、西武グループの株式名義虚偽記載を看過させた元凶であるという事実をわれわれは……って、うんそうだよ、オレは建前論を振りかざしている。中学生みたいな正論を吐いている。でもって、「空気を読」んだ業界人に対して青臭いキバを剥いているわけだ。困るよね、こういうヤツって。
おそらく、テレビの現場において、最も大切なのは、「空気を読む」能力だ。スタジオの空気をいち早く読んで適切な突っ込みを入れるアドリブ能力。プロデューサーの意向を汲み取る状況判断力と、不祥事をかわす反射神経。業界人脈の力関係を見極める眼力。
……私は、反射的に弱者の味方をするテの言論を弄んでいるのではない。「同調と異端」の話をしているつもりだ。つまり、この国では、何か問題が起こった時、事の是非や正邪よりも、周囲の空気に同調的であるか否かが重視されるということだ。で、同調的な人間は生き残り、孤立した人間は排除される。そして、調子を合わせる能力が称揚され、孤立をおそれぬ勇気は忌避される。学校でのいじめも同じだ。強弱ではなく、孤立/同調の文脈で起こっている。
一億二千万人による横並び圧力。
いやな国だなあ。
私がこの原稿を書いたのは、11月3日で、ということは、もう半月以上も昔の話です。
いまさら蒸し返したい話でもないので、お読みになった方は、なるべくコメントしないでください。
反論であれ同意であれ、この問題については、私はもうコメントを返しません。論点は既に出尽くしているし、意味のある議論は終了しています。
それでは。
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コメント
コメントするなというなら載せなければいいのに・・・といって書くなといわれてコメントを書くわしもそうなんだが(笑
なるほど。連載コラムなんで二つセットで読んで完成なコラムでしたね。前は無粋なツッコミすいませんでした(反省)。も少し論を煮詰めると、この国には宗教や道徳といったそれぞれの人がココロの内にもった内部規範が薄く、ゆえの同調圧力ってやつかな。社会がアノミーになり内部規範が希薄なところにウェイトを大きくしたのが外部規範で、その最たるものが「法律」 当の紳介が、昔なら村の同調圧力で収まっていた些細なトラブルを、法で解決という「行列の出来る法律相談所」の司会者であったのはなんとも皮肉な・・・
投稿: 相田くひを | 2004/11/20 14:30
小田嶋さんに意地悪してみるのも正直飽きてきたね。
私も面倒くさくなってきた。
小田嶋さんご苦労様。
投稿: 金なら返 | 2004/11/21 15:07
中途半端な勝利宣言にも正直呆れましたね。
私も面倒くさくなってきた。
小田嶋さんお疲れ様。
投稿: 通り縋り | 2004/11/21 17:28