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2004/10/21

顔を立てる

 下の浦和VS横浜戦についての論評の中で使った「イエローカードの顔を立てる」という言い回しについてちょっと解説してみる。
 判定の帰趨にこだわっているのではない。
 ただ、表現として面白いので、掘り下げてみたくなったのですね。

 「顔を立てる」は、囲碁の技術書などでよく使われる語法だ。囲碁の世界にはほかにも示唆に富んだ表現がたくさんある。これなどはその典型だろう。

 囲碁において、すべての石(手)は連動している。石は、それ以前に打った一連の石の戦術的な意図を無意味にしないために、常に直前の一手の意を受ける形で打たれる。このことを、囲碁の教則本などでは、「石の顔を立てる」とか、「右辺に打ったヒラキの顔を立てて次の一手は……」というふうに表現している。

 「石の顔を立てる」ということは、「前車の轍を踏む」ということでもある。であるから、ある時点で、悪手(ヘボな一手、不適切な作戦行動)を打つと、その悪手を悪手にしないために、次の一手では、ちょっと無理目の手を打たねばならなる場合が多い。こうして、ある時点で戦術的な選択を誤ると、それ以降、碁は、ミッドウェーからガダルカナル、沖縄というふうに、余儀なく破滅への道を歩むことになる。
 この状態を「悪手が悪手を呼ぶ」と言う。
 言い方を変えるなら、一手一手の戦術的な一貫性を保つためには失敗を続行せざるを得ないということだ。サッカーの場合でも事情は同じで、無理な突破をはかった結果、敵方DFに包囲されることになったミッドフィルダーは、その無謀な行動の必然的帰結として、無理なパスを出さざるを得なくなる。
 悪手が悪手を呼ぶこの悪循環から逃れるためには、前の手の顔をツブさねばならない。
 自らの過去の着手(行動)を否定し、前非を悔いるところから再出発しない限り、立ち直りは不可能なわけだ。
 とはいえ、潔く非を認めていれば、それで勝てるというものではない。勝負の世界はそんなに単純ではない。
 作戦行動には、撤退不能なポイントというのがある。ある地点を越えたら、もう引き返すことはできない。そこまで行ったら、乗りかかった船というのか、毒を食らわば皿までというのか、見込みは薄くとも、最後まで初志貫徹で突っ走るほかに選択の余地はない。

 株の世界で言うところの、ナンピン買い(購入した株式が値下がりした際に、低い金額で同じ株式を買い増して平均購入価格を下げていく買い方のこと)がこれに当たるかもしれない。
 たとえば1000円で買った株が800円に下がる。
 と、普通の投資家は、適当なところで損切り(損がこれ以上デカくならないうちにあきらめて売ること)をするのだが、負けん気の強い向きは、800円の時点でさらに買い足す。こうして、全株の平均購入価格を900円にして、値上がりを待つわけだ。
 仮に、株価が900円に戻れば、そこでチャラになるし、950円にでもなれば、かえって儲かる、と。
 なるほど。
 しかし、株価がそのまま下がって600円になると、その時点で含み損はさらにデカくなっている。
 こうなると、ますます損切りがしにくくなる。
 そこで、相場師はさらにさらに600円でも買いを入れて……というふうに、下がれば下がるほどいよいよ買いまくるタイプの破滅型の人がいるおかげで、市場の活性が保たれている部分はおそらくあるわけで、株式市場は、バカがドライブしているものなのかもしれない。
 いずれにしても、清算不能な額の損をかかえてしまった投資家は、「いつかは上がりに転じる」という想定で動くほかに有効なストラテジーを持っていないわけで、だからこそ、現状の損をさらなる損で埋めるという、信じがたい作戦を遂行するに至る、と。
 イヤな例だな。
 そういう意味では、たとえば西武鉄道の株券とかは、いまや兜町発樹海行きの片道切符みたいなものに化けているわけで、こいつをかかえてナンピン買いを入れてるヤツは、おそらく半分は幽霊になってて、日が当たっても影ができなかったり……合掌。

 人物画で、たとえば右目を実際より大きめに描いたしまったとする。
 と、左右のバランスを取るために左目も大きめに描かねばならなくなる。
 と、目ばかりがあんまり大きいのもヘンだということで、鼻を多少長めに修正……ってな調子で、手を入れれば入れるほど、モデルとは似ても似つかぬ顔ができあがっていく。
 覚えのあることだ。
 小さなウソをカバーするために、ワンサイズ大き目のウソをつかねばならない事態。
 いやな気分だ。
 
 「判定の一貫性」というプリンシプルに縛られているサッカーの審判も、だから、最初にキツめの判定をしてしまうと、一試合をイエロー乱発の神経症野郎として突っ走らざるを得なく……なってはいけないのだよ、柏原君。
 判定の一貫性よりも、一試合トータルで見た場合のゲームハンドリングの妥当性の方がより重要だとオレは思うぞ。多少バラつきがあったからといって、個々の判定が死ぬわけではない。安心しろよ。聖書でさえ逐語的に見ていくと矛盾だらけなんだから。

 まあ、そういうわけだ。堤君も、過去は過去として、潔くインサイダー取引を認めたらどうだ?
 どっちみち立ち直りの目はゼロだけど、この際、あらいざらいぶちまけた方が、予後は良いと思うぞ。
「ま、あの男も、一生涯を救いようの無いゲス野郎として生きたわけだが、最後の瞬間だけは正直者として死んだわけだ」
 と。
 どうだい?
 素敵な人生じゃないか。

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コメント

 現在、奈落の底に沈みつつある西武鉄道株が一時値上がりしたのは、「含み資産」を評価すると株価は大幅に割安であるという観測が流れたためです。
 しかしながら、あれだけあからさまなインサイダー取引や東証内部規定違反をしていた企業が、まともに帳簿つけているとは私には到底信じられません。含み資産もあるでしょうが、山一證券のように簿外債務や回収不能な投資も膨大にあるんではないでしょうか。
 企業が崩壊する時にはとんでもない違法・背任行為が明るみに出るものです。
 カネボウも、経営再建のために外部監査を受けたら、最大の収益源である化粧品部門の1年利益に相当する1000億円もの金を下請けに貸して焦げ付かせていたことが明らかになりました。
 上場廃止直前に株価が10円ぐらいになったら、ネット証券でヒトツ買ってみようかと思います。5年後に再上場して100円になる日が来ないとも限らないですからね。

投稿: 井上 晃宏 | 2004/11/15 15:23

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初めまして、高知県の西南地域で公立小学校の教頭をしています松田裕といいます。ハンドルネイムは「へなちょこまっちゃん」です。 神戸女学院大学教授の内田樹先生のホー... [続きを読む]

受信: 2004/10/23 14:42

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